ここでは、小規模店舗を想定し、5人~10人ほどの従業員(パート含む)で、ケーキやパンやお菓子を製造しているお店の原価計算について説明します。
おそらく、お菓子屋さんやケーキ屋さん、パン屋さんが「原価計算をしたい」という場合は、製品別(よもぎ餅、クロワッサン、いちごショートなど)の原価計算をして、それが単体で「どれだけ儲かっているのか」を知りたいのでしょう。
原価がかかり過ぎているのなら、「原価を下げよう」と考える材料にもなりますよね。
あるいは、価格設定のために「原価がいくらかかっているか」を知りたいのだと思います。
そこで、原価計算なのですが、経営判断において、できるだけ参考になるような方法をご説明します。
初めに、製品原価が何で成り立っているかを式を使って説明します。
製品原価 = 単位当たり材料費 + 単位当たり加工費
※ 単位当たり加工費 = 賃率 × 加工時間
一見すると、難しそうな言葉が並んでいますね。要素を一つひとつ理解しながら、進めてください。(^^)
では、具体的な説明に入ります。ここでは単位を”1個”としましょう。
そして、ここでは価格設定がしやすい「損益分岐賃率」を使った方法で説明します。
製品原価=1個当たりの材料費+1個当たりの加工費
※ 1個当たり加工費=損益分岐賃率×加工時間
まず、材料費です。
材料費とは、お菓子やケーキやパンを作るための原材料になります。バター、薄力粉、砂糖、塩、たまご、牛乳等です。
そして、その材料を配送してもらうときの運賃や保険料があれば、それも含めます。
それぞれの製品ごとの原材料の量はレシピで決まっていると思いますので、運賃などを含めて1個当たりの材料費をそれぞれ求めます。
ここで注意することは、”材料の仕入れ価格の変動をどうするか”です。
これは、どういった材料単価の決定法を取るかをお店で決めて、それにのっとって継続していくといいです。
できるだけ手間のかからない計算方法をするといいでしょう。
例えば、「平均法」だったら、月初の仕入れ値と月末の仕入れ値を平均するとかですね。
よほど大きな価格変動がない限り、こうしたことにあまり時間を取られない方がよろしいです。
次は、加工費です。
一般的な原価計算でしたら、ケーキやパンを作る人の人件費を計算して製品別の作業時間によって割り振り、水道光熱費や減価償却費を比例配分するという方法が取られるでしょう。
しかしながら、古賀式といいますか(笑)、私の場合は経営判断がしやすいように、損益分岐点が分かる原価計算をお教えしています。
それは、ケーキ、パン、お菓子を実際に作る人(以下、直接作業員とします)が、お店が赤黒トントンになるためには時間当たり、いくら稼がなくてはいけないかが分かる方法なのです。
具体的に計算方法を説明しますね。
まず材料費とそれにかかわる運賃などを除いた費用全部を計算します。これは、内部費用であり、固定費とも言います。
材料費や運賃は外部費用です。
固定費は、直接作業員の人件費はもちろん、レジなどの販売しかしない人の人件費や役員報酬も入ります。社会保険料などの法定福利費や福利厚生費も入ります。
また、梱包材や機械設備の減価償却費、水道光熱費、チラシなどの広告宣伝費、家賃などすべてが固定費(内部の費用)と考えます。
ここで大切はことは、これらの数字は今後1年間の計画数字を使うということです。
すなわち、人員を増やすなら、人件費を増やした数字を使ってください。設備を増やすなら、減価償却費を増やしてください。
過去の数字を見て参考にして、今後1年間の固定費を見込んで数字を出します。
ところで、固定費に関し疑問に思われるのが、「材料費はケーキやパンに必要なのは分かる。作る従業員の人件費も分かる。でも、レジの人件費や広告宣伝費、その他いっさいの費用はケーキを製造するときの費用とは違うのではないか」というものです。
確かにお菓子やケーキを直接作るのに関係しない費用(間接費といいます)が入っているのは変な気がするかもしれません。
ただ、直接費(パン・ケーキの材料費や製造する人の人件費)以外の費用(間接費)をまかなっていくのは、製品一つ一つなんですね。
ケーキ屋さんだったら、いちごショートの売上が、製造にかかわっていないものの費用もカバーしないと商売が成り立たないですよね。
全ての費用を含めて原価計算をしているので、本当に黒字になる価格はいくらなのかが分かるのです。
これを逆に製造費用だけを見て原価計算をすると、間接費用を製品1個がいくらカバーしなければいけないかが分からないので、経営判断が難しくなります。
説明を続けましょう。
それら固定費(内部費用)の今後1年間の計画数字を全部たしたものを、直接作業員の年間総労働時間で割ります。
年間総労働時間は、人員計画から算出してください。
そして、所定内労働時間における有給の休憩時間があれば除外してください。有給休暇も平均取得数で結構ですから、年間労働時間からマイナスするようにします。
すると、直接作業員の年間総労働時間(計画数字)が出ますので、それで全ての固定費を割り算します。
例えば、全ての固定費が20,000,000円、年間総労働時間が5,000時間だとすると、
20,000,000÷5,000=4,000円 これが損益分岐賃率になります。
この数字は、「1時間当たりに4,000円の付加価値を生み出して赤黒トントンですよ」という意味です。
(付加価値は売上ではありません。付加価値=売上高-外部費用)
次に加工時間を出します。原価を求めたい製品について、時間当たりいくつ出来るかを出します。1時間で20個とかですね。
パンなどで発酵時間に別の作業をしているようなケースは、発酵時間は含めないようにするといいと思います。
これである製品の1個当たりの製造時間が出ます。
仮に0.05時間で1個できるとします。すると、0.05×4,000円(賃率)=200円 これが1個当たり加工費です。
そして、先に材料費を計算した方法で、材料費が1個当たり150円かかるとします。
ゆえに、150円(材料費)+200円(加工費)=350円が1個当たりの原価になります。
この金額で売り切れれば赤黒トントンですから、これに利益や、売れ残りの廃棄コストを計算して、価格設定の参考にします。
仮に廃棄率が60%とすると、10個作って、4個売れて、6個が売れ残りか、廃棄です(あくまで仮の数字です。極端な例を出しています)。
全部作れて、売れた場合は、350円×10=3500円 ですが、
4個だけ売れたとなると350円×4=1400円ですね。
2100円不足するために、それを売れた4個でカバーすると考えれば、2100÷4=525円
つまり、350円(原価)+525円=875円が理論上の損益分岐点の売価になるということです(損益分岐点の売価は赤黒トントンのところですね)。
875円が損益分岐点の売価でしたら、プラス利益をのせて1000円が売価というふうに価格設定をすればいいです(注:この価格設定はコストから見た価格設定です。マーケティングの視点からの価格設定とは違います。マーケティングの視点からの価格設定でしたら、お客様が「この製品なら、これくらいなら出せる」という価格を設定して、そこから製品設計をします)
さて、今までは価格設定にもいかせる損益分岐賃率を使った原価の求め方を説明しました。
では、いちごショートケーキやクロワッサンなど、実際の原価を求めるにはどうすればいいかというと、固定費の数字を過去の実際の数字を使います。
そして、直接作業員の労働時間も実際の時間を使います。そうして、実際賃率を求めます。
実際賃率=実際の固定費÷実際に投入された直接作業員の労働時間
すると、1個当たりの材料費+(実際賃率×加工時間)で、原価が出ます。
加工時間は、その製品1個当たりの加工時間です。
ただし、実際の数字が過去1年でしたら、だいぶ時が経ってからの「過去の振り返り」みたいになりますので、損益分岐賃率を使った原価を基準に「未来の数字」を見ていったほうがいいでしょう。
また、その製品の「実際の付加価値」※を、「その製品に関わった加工時間」で割った賃率を出して、損益分岐賃率との差を見るのも大切です(その賃率が損益分岐賃率を上回っていれば、利益がでているということ)。
( ※ 実際の付加価値=実際の売価-材料費)
さて、お菓子屋さん、ケーキ屋さん、パン屋さんから「原価計算を教えてほしい」というニーズがあるので、ここまで書いてみました。
ここでお菓子屋さん、ケーキ屋さん、パン屋さんの店舗経営に役立つ別の方法をお教えします。
まず、過去のデータ1年分を使います。
売上高から外部仕入(先ほどの例では「外部費用」と書いていたものです)を引いてください。外注費はないと思いますけれど、もしあれば外注費も売上高から引きます。
すると一年間の粗利が出ます。
売上高-外部仕入=粗利(付加価値)
粗利率を出してみましょう。粗利を売上高で割ってみてください。
粗利÷売上高=粗利率
粗利率は何パーセントですか? 貴店の粗利率を頭に入れておいてください。
次に粗利から一年間の固定費(外部仕入以外の全ての費用)を引きます。すると利益が出ます。
粗利-固定費=利益
この利益がマイナスでしたら、赤字だということですね。
そして、固定費のうち、人に関する費用(役員報酬、給与、賞与、法定福利費など)を人件費としてまとめてみてください。
人件費を粗利で割りますと、労働分配率が出ます。
人件費÷粗利(付加価値額)=労働分配率
労働分配率は、粗利(収益)を人に対してどれだけ回したかの割合が分かるものです。貴店の労働分配率も頭に入れておかれるといいです。
今までの数字を社長が見られると、「あんまり儲かっていないな」とか、「人件費が占める割合が大きいな」とか、気づかれることがあると思うんです。
ちなみに、令和5年のデータでは、パン小売業(製造小売)の業界平均は55.7%です。労働分配率は40~60%が妥当な数字だと言われますので、パン小売業は妥当だということですね。
次に商品別、製品別のABC分析をしてみましょう。
この場合、売上高ではなく、粗利高によるABC分析を行います(製品別粗利率に大きな差がないようであれば売上高でもOKです)。
貴店の儲けに貢献しているものとそうではないものが分かると思います。結構作ってはいるけれど、意外にも売れ残って廃棄しているものも分かるでしょう。
貴店の強みや、お客様にどういったものが支持されているか、わかって来ると思います。
お店全体の収支を全体でまずつかんで、次に製品別のABC分析をしてみると、意外なことに気づけると思います。
ぜひ、やってみてください。