販売に必要な内部資料とは?

 

販売に必要な内部資料は、たくさんあるわけではありません。

経営コンサルタントの一倉定さんが重視していた内部資料に次の2つがあります。

  売上年計表

  売上高ABC分析表

そして、経営状態を知るには絶対額だけではなく、傾向を見るのがポイントです。

 

売上年計表

 売上で大事なのは“傾向”を読むことです。そこで使えるのが「売上年計表」になります。

一倉定さんも顧問先の経営コンサルに行かれたら、毎月必ず年計を確認されていたそうです。

 

月別の売上は、様々な要因で大きく変動します。稼働日数が少ない月は売上が落ちますし、納期が遅れて翌月に回った場合には当月の売上が落ちて、翌月にドンと売上が上がってしまいます。


また、季節変動、繁忙期、閑散期等の数字を比較しても、事業の実態はつかみにくいものです。

そこで有効なのが「売上年計表」です。

これを使っている会社は、ほとんどないと思います。私が勤めた会社で使っている所は一社もありませんでした。

しかしながら、売上の傾向を読むには、この年計をグラフ化するのがベストです。

年計は、1年間の売上を一か月ずつ移動して累計する方法です。

具体的に説明しますと、売上の計算をするスタートを仮に「2010年1月から」とします。

この場合、2010年1月から2010年12月までの1年間の売上累計を出します。

次は、一月過去から現在へ移動します。

2010年2月から2011年1月までの売上累計を出します。

同じように一か月ずつずらして、累計を出していきます。 

2010年3月から2011年2月までの売上累計。

2010年4月から2011年3月までの売上累計。

2010年5月から2011年4月までの売上累計。


そして、現在までの一年の累計を出します。仮に今が2012年2月終了時点だとしましたら、

2011年3月から2012年2月までの売上累計を出します。

これで2010年1月から2012年までの一月(ひとつき)毎の売上年計が出来上がりです。

これらの累計は季節変動がありませんので、売上が上昇しているのか、下降しているのか、傾向をはっきりと掴む事ができます。

 

次にこの数字をグラフ化してください。

グラフにすると売上の動きが如実にわかるようになります。縦軸を大きく幅を取ると、売上の動き(傾向)がよく掴めるはずです。 

そして、全体の売上年計表のグラフに、得意先別なり、製品別なり、地域別で売上年計表を追加すると更に傾向が分かるでしょう。

あるいは、人件費、粗利益、営業利益など他の費目の年計グラフを追加することによって、費用と売上の関係も見えてくると思います。 

 

このように、会社の数字は単独で見るものではなく、比較して見るものです。

年計は売上の変化を敏感に教えてくれるものですので、ぜひ作ってください。

 

売上高ABC分析表

 一倉定さんが販売において重要な内部資料とされていたのは「売上高ABC分析表」になります。いわゆるパレート分析表ですね。

パレート分析表は、ある事象について現れる頻度によって分類する方法です。


パレート分析表は、元になったのが「パレートの法則」というもので、これは全体を構成する一部が全体の大部分を生み出しているというものです。

例えば、「国民の所得の大部分はごく少数の人々によって占められている」などがあります。


これを経営におきかえますと、「売上の大部分は、ごく少数の得意先又は商品によって構成されている」ということになります(よく言われるのが、20%の顧客が、全体の80%の売上を構成しているというパターンです)。

 

では、どのような売上ABC分析表を作ればよいかといいますと、“得意先別”と“商品別”の2種類です。そして売上期間は一年間が良いでしょう。

 

仮に得意先別の売上ABC分析表を作るとしますと、年間売上額の高いものから降順でソートします。そして、上から順に累計額を出していきます。

 

次に、全得意先の売上額から、その累計額が全体の何パーセントを構成しているかを算出します。

この計算式を複写して、全得意先の数字を出します。


大事なことは、例え売上額が小さな得意先でも、全て載せることです。その他数社等のように、まとめてしまうと意味がありません。売上がゼロでも載せて下さいね。

 

次に、完成した表をどう見るかについて説明します。

上位10社が何パーセントを占めているかを見て下さい。おそらく全売上の80%などの結構な割合のはずです。

そして、累計から出た構成比で50%のところ、80%のところ、90%のところに、分かるように“しるし”を付けます。


この上位の顧客(顧客数にもよるが、目安80%以上)については、Aランクとし、社長が定期訪問をする顧客になります。

それから、売上が下位の部分を見てください。

ここは今後のつき合いをどうするか検討するところになります。

 

全得意先の半数の会社、一社一社を社長が検討し、今後も商売を継続するかどうかの結論を出さなければなりません。


そのために、全得意先をABC分析表に載せなければならないのです。

 

売上高ABC分析表の下位5~10%の得意先は、おそらく全得意先の半数位だと思います。その中から継続してつき合いをしていく得意先を、社長が判断しなければなりません。

 

そこで気をつけなければいけないのは、現在は取引額が小さくても、将来有望な得意先になると判断した会社とは、きちんと継続したつき合いをしていくことです。ここを見抜かなければなりません。

それとは逆に、売上が大き過ぎる取引先も要注意です。

 

ABC分析の中で、トップの1社が全社売上の30%以上を占めていると、その得意先に大きな変化が起きた場合に、こちら側に大きなダメージが起こります。また価格交渉なども得意先に優位に進められるリスクもあります。

 

できるだけ、30%以上を1社が占めないように、複数の得意先と商売をしてリスクを分散しておくことが大切です。

 

それから、売上高ABC分析表は1年の期間で策定しますけど、過去3年分も一年ずつ策定して、得意先毎のわが社でのシェアを見比べるのもいいでしょう。

毎年取引高が1位という会社もあれば、どんどん取引高が下がっている会社もあるかもしれません。

逆に、近年取引高が急激に上がっている会社もあるかもしれません。

 

それらの変化を見て、必ず原因を調べて下さい。
 
何か取引先に変化があるときは必ず理由がありますので、そうしたイノベーションの機会を見逃さないようにして下さい。

良い面では他社に応用できることもありますし、まずいことをしている場合は自社の改善に役立ちます。

売上高ABC分析表からは色々なことが見えます。得意先別、商品別に策定することをお薦めします。

 

財務分析で重要なもの

貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書のいわゆる「財務諸表」に関しては、重要な内部資料であることは間違いありません。

しかしながら、それらの数字は過去のものであるところは注意です。


過去の数字は変えられませんから、過去3年間の財務諸表をいくらながめても時間の無駄になります。

それよりも、社長はこれからの前向きな数字を考えるべきです。

社長は会社をどうしたいのか、どういう方向に持っていきたいのかを考えに考えて、そのビジョンを「経営計画書」に具体的に記載して経営を行うのです。


ただ、会社の経営効率や健全性を見るために、財務分析で使えるところを最低限抑えておくと、便利ではあります。

重要なものを表にします。

項  目

計 算 式

第◯期

第◯期

傾向

総資産純利益率(ROA)当期純利益÷総資産☓100   
売上高純利益率当期純利益÷売上高☓100   
総資産回転率売上高÷総資本   
当座比率当座資産÷流動負債   
自己資本比率自己資本÷総資本   
売上債権回転率売上高÷(売掛金+受取手形)   
在庫回転率売上高÷棚卸資産   

注)当座資産とは、現預金、売掛債権、有価証券など資産の中でも換金性の高いものです。
この表にありますように、第◯期、第◯期と2期分の数値を入れてください。そうすると傾向がわかります。上記の計算式は数字が大きいほうが良いです。


それゆえ、2期の比較をして数字が増えているようなら、傾向欄に↗を入れてください。もし、さがっているようなら、↘を入れます。


これによって各数値が良くなっているか、悪くなっているかが一発で分かるようになります。

特に気を付けなければならない比率は、当座比率です。

一般的には流動比率が重要視されています。流動比率は流動資産÷流動負債の数字です。


しかし、流動資産には、棚卸資産や前払費用などが含まれるため、より厳密な安全性を見るには当座資産を使って、当座比率を見るほうが良いのです。

 

当座比率は100%以上はほしいところです。100%以上あるということは、1年以内に返済すべき負債よりも1年以内に現金化できる資産が多いということだからです。


70%未満だと、かなり危険だと見なされるでしょう。

 

当座比率について、軽く触れましたが、これらの数字は参考になりますけれども、大切なことは一つの比率だけではなく、全体を通してバランスよく見ることです。

数字を見るときは傾向で見ることも大事ですし、一箇所の数字だけで全体を判断するのではなく、全体を色々な角度から見て判断することが大切になります。

 

それと繰り返しになりますが、財務諸表は過去の数字ですから、それを見て「うん、うん」唸って考えこむよりは、会社を未来へ向かって、どういう方向へ持っていくのかを、前向きに考える時間を取るほうがよほど重要です。


社長のビジョンを事業計画、経営計画に落としこんでみてください。