適正な在庫基準の出し方とは

 経営者の方は、在庫基準を月商(月の売上高)や仕入高の何カ月分という見方をしているのではないでしょうか。 

今後の経営で「売上の二カ月分」といった考え方をするのは間違いです。

 なぜなら、現在のように原材料費が値上がりし、人件費も上げなければ人を雇えない状況で、売上を基準にしても安全性は量れないからです。


では、どうすれば良いかといいますと、「付加価値に対して何%か」という発想をしてください。 

 

「付加価値」とは、売上高から外部費用を引いたものです。
 
付加価値は、経理的には「売上総利益」、「粗利」と言います。
 
 
式で書きますと

付加価値=売上高-材料費-外注費

となります。

 

円安で原材料費が値上がりしていますが、それに比例して売上を上げることができれば苦労はありません。

しかし、現実にはコスト増の中、販売価格をできるだけ抑えながら営業しているのが現状でしょう。

そうした状況で「売上高対人件費率」を考えたり、「売上に対して在庫がいくら」と考えたりしてもいけないのはご理解いただけると思います。

 
それゆえ、今後の経営では「付加価値を基準に経費を考える」ようにしてください。

 

そして、在庫のポイントは「付加価値率の高いものを持つ」ことです。

 逆に付加価値率の低いものはできるだけ在庫で持たないということですね。

 

売上高比で在庫を持つのではなく、付加価値率の高さを基準にして在庫量を考えるということです。その方がより儲かる商品を持つことになります。

 具体的に書くと、付加価値率が50%のAと付加価値率25%のBだったら、AとBの在庫比率は2対1にするということです。

 (ただし、付加価値率が低くても”お客様を店頭に呼んでくれる商品”もあります。そうしたことは経営判断で仕入れしてくださいね)

  

では、適正な在庫基準とはどれくらいだと思われますか?

適正な在庫基準の出し方にも、付加価値を使います。

 

ちょっと厳しいですが、付加価値の4か月以内を目標とします。

計算式は次のようになります。

在庫回転率=期末棚卸在庫÷月間付加価値

 

月間付加価値は、1年間の売上総利益を12か月で割って出してください。

そして、年度末の棚卸在庫を、1月分の付加価値で割ってもらって、その数字が4以下なら合格ということになります。

なお、毎月試算表を作成している会社でしたら、毎月の棚卸在庫を分子に使ってください。そして、当月の付加価値(売上総利益又は粗利)で割り算をしてください。それが、4以下ならOKです。


なお、社長が見る数字として気を付けることは、棚卸在庫は、BSの製品(商品)、仕掛品、原材料、貯蔵品の科目をすべて棚卸在庫として合算してください。

これらを細かく分けて計算しても、経営判断ができる数字を見つけるのは難しいです。

この計算は税務署に届けるものではないので、経営判断しやすい方法を取って数字を見るのが正解です。

 

合算して「一体全体、うちの会社はどれだけ在庫があるのだ」というのが分かるように計算するようにしてくださいね。

原材料費が値上がりし、付加価値が次第に下がっている状況です。

 付加価値(限界利益とも言います)を基準に在庫を考えていただけるとよろしいかと思います。 

 

正しい在庫管理の方法とは

商品の在庫管理の方法についてお話しします。

 在庫管理に会計ソフト(在庫管理システム)を使っている会社も多いでしょう。

 
ただ、私も今まで色々な会社を見てきましたが、有効に在庫管理をしている会社は少ないかと思います。

まず、在庫管理では、「総在庫金額」だけを見てはいけません。

 
なぜなら、死に筋商品、いわゆるデッド・ストックが必ず在庫には含まれているからです。
 
総在庫金額が多い理由で、単純に一律に在庫を減らすと、売れ筋商品の品切れを起こしかねません。
 
そこで、最初にデッド・ストックを処分してください。
 
 
 これは現場に任せるだけではなく、経営トップの判断が必要なときもあります。

実地棚卸のときに経営トップは実棚を見に行って、不要なものを捨てるように明確に指示することです。ほっておくと、全く売れる予定のないものが倉庫に積みあがってしまいます。


デッド・ストックの廃棄処分ができましたら、有効在庫については個々に在庫基準を決定します。

ここで気を付けることは、在庫基準は締日現在の在庫だということです。

仕入先への支払が15日締めの翌月末日払いだったら、15日現在の在庫金額になります。
だから、在庫基準は高くはなりません。

なぜなら、15日現在の在庫は一日分が理想で、翌日16日に一か月分を仕入れるのがベストだからです。

一日の違いで、支払が(この場合は)45日違うので、支払締日前に売れない分まで大量に仕入れるようなことをしてはいけません。

これは、考えてみると当たり前のことなのですが、意識していない社員も結構います。  社員に任せっきりにしていると、資金繰りがマイナスに働くことがあります。

締日を意識して仕入するだけで資金繰り改善につながるので、社員にはきちんと意識させることが大切です。


さて、在庫を持たれる会社では、入庫から出庫を引いて在庫数量を出しておられるところがあると思います。

これは「残高方式」ですね。(入庫-出庫=在庫)

ところが、この残高方式ですと、売れ行き状況がうまくつかめません。  それゆえ、販売予測がしにくく、計画的な発注も難しくなるのです。


そこで有効な方法が、「累計式在庫管理」です。

これは「商品別の商品台帳」だとお考えください。

商品別に、台帳を作ります。
     発   注 
 
 
    入  庫
 
 
 
   出  庫
 
 
 
 在庫
 月日
 摘要
 数
 累計
 月日
 摘要
数 
 累計
月日 
 摘要
 累計
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 エクセルを使って、左から、「発注」「入庫」「出庫」「在庫」の欄を作ります。
「発注」「入庫」「出庫」は、【日付、摘要、数、累計】の4列をそれぞれ作ります。
「在庫」は一列のままで結構です。

これによって、入庫累計-出庫累計=在庫数を出します。

累計は一会計期間(年度)でも良いですし、商品が誕生してから商品がなくなるまででも結構です。

この累計を使うことによって、「過去にどれだけ売れたのか」が一目瞭然に分かります。

また、その商品が上昇傾向にあるのか、下降傾向にあるのかも分かります。売れ行きの傾向がつかみやすくなるため、計画的な発注ができるのです。

そのほか、累計されているため、仮に今3月末の出庫数が分かっていて、3月単独の売上が知りたいときには、3月末の出庫累計数から2月末の出庫累計数を引けば、3月単独の売上が分かります(出庫が売上のケース)。

経営の数字は傾向を見るのが大切です。

商品がしばらく売れ続ける流れなのか、下火になりつつあるのか等を見なければなりません。
単に今在庫がいくらあるのかではなく、商品の販売傾向と同時につかむことが大事です。 

 
 最後に、実地棚卸(じっちたなおろし)についてお話します。

実地棚卸とは、商品を保管している場所に実際に行って数え、帳簿の数と合っているかどうかをチェックする作業です。

帳簿との数が違うときは、現実にある個数が正しいことになるので、帳簿を現実の数に合わせることになります。

この数が合わないときには、原因をきちんと究明しておくことです。

業務フローが悪いのか、発注の仕方が悪いのか、仕入先と何か隠された問題があるのか分かりませんが、何らかの貴社の課題が現れていると思われます。 

私の経験上一番多い原因は、製品の移動と伝票がバラバラのケースです。
 
「お客さんが大至急って言っているから出荷して」と営業が指示をして、「後で伝票を書いておくから」と言って忘れているような場合です。
 
製品(商品)を出荷するときには必ず伝票を添えて動かすようにしてください。
 
 

さて、実地棚卸に関しては注意すべき点があり、一つは実施する間隔です。

年に一度の棚卸をしている企業は多いと思いますけれど、年に一度では少なすぎます。
半年に1回でも少ないでしょう。

最低は3カ月に1回、つまり四半期に一度はしないといけないと思います。
 

あまりに倉庫が整理されていなくて、帳簿との数が合わないものが多いようでしたら、最初は月に1回実地棚卸をして、「整理整頓」を徹底して指導した方がよいでしょう。

また、倉庫は汚くなっているケースも多いので、清掃ができているかをチェックした方がいいです。


それから2点目は、経営トップが要らない在庫品を処分するように指示することです。

全く売れないものが、倉庫の隅や奥でホコリをかぶって何年も置いてあることがよくあります。

売れないものを置いておくスペースは無駄です。

また、それらの商品は資産になるので、利益が余分に出ていることになります(それだけ多く税金を払うことになります)。

売れないものは、バッサリと廃棄することです。

なお、売れ行き動向については、先に書いた「累計式在庫管理」で数字を見るとつかめますので、それを参考に市場を見ながら判断すると良いでしょう。

長くなりましたが、在庫管理についてのお話は終わります。 何かの参考になりましたら幸いです。