小さな会社の戦略

 

    小さな会社が取るべき戦略とは

ここでは戦略の話をしましょう。まず戦略には「強者の戦略」「弱者の戦略」があります。『三国志』でいいますと、強者とは曹操率いる魏の国です。弱者とは孫権の呉と劉備の蜀があたります。

強者はNo.1、弱者は”1位以外全て”だと理解してください。

このNo.1かどうかは、『三国志』の場合だと国力(人口、国土、産物生産高)で比較します。魏が全てにおいてNo.1だと思います。

これを企業競争に当てはめますと占拠率で見ます。

市場占拠率、得意先の占拠率、商品別占拠率、地域別の占拠率でトップの企業が強者になります。お気づきかと思いますが、商品別占拠率がNo.1でも地域別ではNo.1になれない企業も出てきますので、それぞれのカテゴリーで強者と弱者が入れ替わることになります。

例として、ビール業界を挙げましょう。

ビール市場全体では、アサヒ・ビールが一番の占拠率を持っています(市場占拠率)。しかし、発泡酒だけになりますと、キリンが一番の占拠率です(商品別占拠率)。また北海道では、サッポロビールが占拠率一番になっているのですね(地域別占拠率)。

このようにカテゴリー毎に強者と弱者は違ってきます。戦争と企業競争が違うところは、会社の規模(特に社員数)で強者や弱者が決まらないことです。小規模企業でもカテゴリーによっては強者になれるということです。


さて、当方のHP読者の方は中小企業の経営者の方々がほとんどだと思いますので、私は、小さな会社のための「弱者の兵法」をお教えしたいと思います。


まず、弱者は決して、総合戦を取ってはいけません。弱者は兵力を集中して局地戦を選ぶのです。

例えば相手の戦力が100人とします。兵士の数と考えてください。そして武器は同じレベルの武器を所有しているとしてください。それに対して自軍が30人しか兵力がないとします。これではとても勝ち目はありません。

こうした時は、100人の戦力が自軍より少ない人数になる地域、地点で戦うようにします。100人の全部隊の内20人の単位で固まっている軍団を目指して30人で攻撃するわけです(これを「各個撃破(かくこげきは)」といいます)。そうしたら数が多い方が勝つことができます。この各個撃破を繰り返し、勝利を収めるのです。
この戦争の各個撃破を企業競争に応用してみましょう。それは「差別化戦略」というものになります。



「差別化戦略」とは、“他社とは違うことをすること”です。


では、他社とは違う、どんなことをすればいいのか。

一つは他社には無い“感動”をお客様に与えることです。同業他社では味わえなかった感動をお客様へ与えるのです。


私の家内が経験した例では、ある和菓子屋さんでのことです。

そこで商品を買い、その品物を実家へ郵送しようとしましたら、お店の人が 「当店の宅配便の集配は終わってしまいました。お急ぎでしたら、隣のコンビニの集配がまだのようなのでそちらに出されたらいかがですか」と言われたそうです。

家内は、期日のあるプレゼント(母の日のお祝い)だったため発送を急いでいたので「今日は終わりましたと言われたらどうしよう」と思っていたんですね。ところが、店員さんが隣のコンビニの情報を親切に教えてくれたことに、ちょっと感動したようです。


私の知っている例では、関西在住の頃からお世話になっているソニー生命保険の営業の方になります。

この方はいつもお客様のことを第一に考えて行動されています。保険を薦めるときは、お客様のことを第一に考えた提案を出され、時には他社の保険を薦めることもある徹底ぶりです。

私も何度も無理なお願いをしていますが、いつも嫌な言葉を出すこともなく、迅速に対応してくれます。そして関西と千葉で書面をやり取りする時には、いつも返信用の封筒と切手を貼ってくださっています。些細なことに、きちんとした心遣いができる方です。仕事ぶりや気持ちが感動を与える方です。


皆さまの会社やお店で、他社に無い感動を与えられるものがないかを考えてみましょう。

仕事をきちんとするけど、”納期も早い”というのもいいでしょう。

挨拶や笑顔がとてもいいというのもいいですよね。

ちょっとした心配りができるサービスもいいのではないでしょうか。

「お客様の感動」をテーマに自社のサービスを見直してみてはいかがですか。

単に喜んでもらったレベルから、感動レベルまでサービスレベル、製品レベルを上げるのです。

そしてこれらの感動が貴社の差別化になり、新規顧客の獲得に繋がるのです。


次の差別化は、地域の差別化です。差別化戦略の中心的な考えになります。それは「地域戦略」です。


『三国志』の諸葛孔明が、漢民族からすれば「西南夷」の居住地で天然の要害である蜀の地に劉備軍を連れていったことは「弱者の兵法」としては誠に正しい選択だったと言えるでしょう。

「弱者」は最初から魏の国のように都のある地域を攻略するのでなく、蜀のように「道もなく誰も行こうとしないような地域」を攻撃するのです。

ではビジネスの例で話を進めましょう。

まず、「弱者」はライバル、競合店がひしめきあっている大都市は避けることです。しかしその大都市はマーケットして大きなものがあるので、最終的な目標として設定をしておきます。

最初は、その大都市の周辺で、ライバルの店舗がないところ、あるいは商圏としての空白地帯を探します。

「裏に道あり」です。「弱者」は“勝ちやすいところで勝負する”のが基本です。敵の強いところに近寄ってはいけません。


例えばあなたが七五三の子供さんの写真撮影をするような写真館を作ろうと考えるとします。
 
写真館は既に大手(いわゆる「強者」)がいますので、ライバル店の商圏に被らないところを探すのです。決して強者と競合してはいけません。強者やライバルのいない地域を見つけましょう(これは一から写真館をスタートさせるケースです。既に何店舗か持っている会社の新規出店は違う方法になります)。

そして地域に密着した独特のサービスを地道に行ってください。そうするとお客様が付いて来ます。

そして2店舗目は、一店舗目と商圏がかぶらないところに設置します。でも離れ過ぎても駄目です。一店舗の商圏が半径500Mなら、二店舗の距離は2キロメートルくらいが理想です。

これは商圏がかぶりますと、お互いに客の取り合いになり非効率になります。少し商圏同士の空白地帯があっても認知度が高まるとカバーされますので、近すぎず、遠すぎずを心がけてください。

次は重要です。
 
三店舗目は、一店舗目と二店舗目を線で結び、三店舗目によって二等辺三角形ができるような位置に出店してください。
 
2店舗目までは商圏が線になっていたのですが、三店舗目ができることによって面ができます。三店舗の商圏の相乗効果が生まれることになるのです。

この「三点戦略」によって、二等辺三角形の中心に商圏がかかっていなくても、お客様の獲得ができるようになります。

 
次に、商圏のセグメンテーションの方法について説明しましょう。

どのように地域をセグメントするかということですが、ポイントは行政区域によってセグメントしないことです。府県や市町村の区分けによって商圏を分けてはいけません。

商圏を分けるのは、人の動線、人の流れによって分けます。


具体的に説明します。皆さまの知っている駅で、それほど大都市ではない駅を思い出してください。その駅には例えば、北側と南側のように正反対に出口、改札口があるはずです。そしてそれほど大きくない駅では、北出口側と南出口側のどちらかはお店がたくさんあってにぎあっていますが、もう一方はお店も少なく寂しい感じになっていませんか?

にぎわっている方はバス乗り場やタクシー乗り場があるロータリーがあるケースが多いですね。でも反対の出入り口側は、人の流れも少なくさびれているというケースがあるでしょう。

これは、線路によって人の流れが分けられている例なんです。商圏を駅中心に考えるのではなく、駅の北側と南側で商圏が区切られている(別の人の流れになっている)と見るのです。

同じような例として、川や大きな道路によって商圏が区切られている(人の流れが区切られている)ところもあります。線路、大きな道路、川、山など、「人の流れをさえぎるもの」によって商圏は分けられます。

逆に市町村の境界線の場所だったら、行政区域で商圏を区切ると別の商圏と見なされるところが、人の流れで見ると同じ商圏になるところも出てくるのです。

このように人の流れによって、商圏の区切りを見なければなりません。その上で自社の地域戦略をどこにするかのセグメンテーションをするのです。

 

次に製品の差別化戦略についてお話ししましょう。


① 機能を絞り込む差別化

スマホが出る前のガラケー(携帯電話)は、過剰な機能が入りすぎていると思いました。日本製の電気製品はおおむね過剰機能を搭載して価格を維持する傾向があります。逆に機能を絞って「使いやすい、分かりやすい」製品を作るのも一つです。今ある機能を廃棄する方法です。


② 既存ターゲットを代える製品

今まで女性向けに作っていた製品を男性向けに作る方法などです。全世代向けの製品を、あえて65歳以上向けの製品として売り出すことも差別化になります。「アラフォーの皆様へ贈るビールです」とか、色々と考えられるものがあると思います。


③ 組み合わせによる差別化

全く別の製品を組み合わせて、新たな製品を作る方法です。例えば電子レンジと冷蔵庫を一体化した“レンジ庫”とか、ダイニングテーブルと食洗器を一緒にした食洗テーブルとか。これだと食べた後に、キッチンに食器を運ばなくてもいいですよね。


④ 無駄なものをあえて取り付ける差別化

①と真逆になりますが、無駄な機能や飾り、おまけをあえて付けて差別化する方法です。例えばエアコンから風を出す時にアロマの香りが選べて出せるようにするとかです。


⑤ 付加価値の高い製品を開発する差別化

これが一番難しいですが、製品差別化戦略の王道に当たるものだと思います。今までの製品に無かった機能を開発する方法です。ユニクロのヒートテックがこれにあたります。この方法は開発費と期間が必要になります。

以上、製品の差別化戦略について、5つの方法を整理してみました。



最後にどういった会社に対して差別化をするかについてお話ししましょう。


分かりやすい例えのために、仮に自社が市場占拠率2位の企業だとします。1位が“強者”で、2位以下は“弱者”になります。

では、自社である2位の企業が差別化を図るのは、1位に対してか?それとも3位に対してか?

答えは、「2位の企業が差別化を図るのは、1位の企業に対して」です。自社より上位の企業に対して差別化を考えなければなりません。


では、自社より下位の企業、この例では3位以下の企業です。下位の企業に対しては、ミート(合わせること。あるいはモノマネ)戦略です。下位の企業がやっていることと同じことをやります。すると経営資源に優る上位企業が必然的に勝つことになります。これが“強者”の戦略です。


ですから、上位のライバル企業に対しては差別化、下位のライバル企業に対してはミートが原則です。

決して上位企業のミートを下位企業はしないようにしてください。上位企業と同じようなことをしたら、負けるのは下位企業になります。


そして、小さな会社は「勝ちやすきに勝つ!」を徹底してください。

ライバル企業や地域でも製品でも何でもそうですが、勝ちやすいところを探して、そこで戦うことです。強い相手や自社の戦場として難しいところは避けましょう。


自社よりも強い会社を避けて、弱い会社をたたく。(よく、プロ野球の優勝チームが、下位チームをお得意さんにして勝率を稼いでいますね。あれも同じ発想だと思います。勝ちやすいチームからしっかりと勝ちを取っているんですね。)

会社の生き筋の一つの方法として参考にしていただけたらと思います。

<了>