「国を愛し、人を生かし、富を増やせ」

『現代の経営』の人材育成とは

 
 
現在の日本は、人手不足になっています。そうした背景から、過去のブログ「2018年の予測」(2018年1月初頭に投稿)にて、企業が人事にきちんと取り組んでいかなければならないことにちょっとだけ触れました。

そこでは、取り組むべき人事の意味を3つ挙げました。

1. 新卒、中途の採用

2. 社員研修

3. 社員が辞めない会社にすること



これらを私の好きなプロ野球(笑)になぞらえて考えてみましょう。


まず、1の新卒の採用は、プロ野球ではドラフトになりますね。

ドラフトでは「くじ引き」という制度がありますけど、現状の選手のスキル、年齢を考慮して、どういった新人を選択するかを考えますよね。

最近は入団を拒否する選手は少なくなりましたが、以前は球団によっては入団拒否する場合もありました。

つまり、どんな選手を指名するかだけではなく、選手が入ってくれるような球団を目指したり、魅力ある条件を提示したりするという面もあります。

また、中途採用というところは、プロ野球だとトレードですね。


2の社員研修は、春や秋のキャンプ、普段の練習など、各チームが育成をしています。それになぞらえますね。

3の社員が辞めない会社にすることは、FAによって選手が流出するのを防ぐことと同じでしょう。


人という経営資源が成果を挙げるところは、一般企業もプロ野球チームも変わりありません。

では、なぜ一般企業の人事の問題をプロ野球チームになぞらえたかといいますと、そこに人事のヒントがあるからです。

プロ野球チームでは、選手は自営業者であり、その集まりであります。軍隊に例えたら傭兵部隊のようなものですよね。立場の違う者を束ねて成果を挙げていかなければなりません。

それゆえ、プロ野球チームの方法の全てが正しいわけではないでしょう。しかし、参考にできるところもあるのではないかと思うのです。

そして私は、ドラッカーの『現代の経営』の”人事に関係するところ”を引用しながら、考察していきたいと思っています。


人事のポイントは、2の社員研修、いわゆる人材育成です。1と3の入口と出口は、2に”比べれば”重要度が落ちます。

それゆえ、ここでは、人材育成を中心に書いていきます。


人材育成について、ドラッカーの『現代の経営』にどのようなことが書かれているかを紹介します。

私は1996年の翻訳本(上田惇生訳、ダイヤモンド社)を持っていますので、以下の引用(黒太字)は1996年版からのものです。ただし、現在1996年版は古本でしか手に入らないので、リンクはドラッカー名著集『現代の経営 下』になります。




ドラッカーは育成という言葉ではなく、開発という言葉を使っています。

人の「開発」は、他の資源のように外部からの力によって行われるものではない。
それは人の特質の利用法を変更したり、改善したりることなどではない。
人の「開発」とは成長である。
そして成長は、つねに内から行われる。



ここでは、とても大切なことが書かれています。

人材開発は、人が成長することによって行われ、それは本人自身によって行われるということですね。

機械でしたら、もっと効率よく動くように外から処理を加えて、改良し、改善することができます。しかし、人間には自由意志があるので、本人がその気になって成長しないと人材開発をすることができないということです。


続けてドラッカーは次のように述べます。

したがって仕事は、つねに人の成長を促すとともに、その方向づけを行うべきものである。(中略)
すなわち、仕事は、働く者にとってつねに挑戦である必要があるということである。



ドラッカーは、「マネジメントは人が成長できるように挑戦するような仕事を与えよ。」と言っているのですね。

標準的な楽な仕事ではなく、「技能も努力も判断も必要とするような高い目標の仕事を与えなさい」という意味のことを言っています。


一般的なビジネス環境の人に対し、まるでプロ野球界の人に言うようなことを述べていますね。プロ野球界では、個人の成績(数字)だけではなく、日々の勝利と最終的なチームの優勝という高い目標が明確に提示されています。

そうした高い目標を提示することが、人間の本性にとってプラスになるのです。(ただし、高い目標は強制して与えるものではありません)


ドラッカーは、

人の本性は、最低ではなく最高の仕事ぶりを目標とすべきことを要求するからである。


と、「人間の本質は、最高の仕事を目標にするものなんだ。」と述べています。

人間の本質を無視して、人に低い目標を与えたら、結局は人間性が腐食してしまうのです。


そして、人材開発において大事なことは、仕事に焦点を合わせることです。


ドラッカーは、次のように述べています。

誇りや達成感は仕事と離れては生み出されない。仕事の中から生まれることが必要である。


社長が、社員に「親愛なる従業員」と呼ぶことによって、自分たちが重要であると感じさせることはできないですよね(笑)。誇れる会社、誇れる上司という発想もありますが、本当の誇りは「その人が仕事において達成したもの」に起因するということです。

人は、誇れるものがあってのみ、本当に誇りを持つことができる。(中略)
人は、何かを達成した時にのみ達成感を持つ。また、仕事が重要なときにのみ、自らを重要と感ずる。



ですから、マネジメントは高い基準の仕事を社員に要求しなければならないのです。


ただし、それは上からの無理難題の強制ノルマのようなものではいけません。
マネジメントは、社員の強みを理解した上で、絶えざる努力と能力によってのみ生み出される最高基準の仕事を求めてください。

これによって、動機付けが行われます。

社員が、自分で自分を動かすようになることの唯一の方法が、より高い目標に目を向けさせることです。


ところで、プロ野球選手は厳しい練習をしています。もし、試合のレベルが低く、練習をしなくても、体を鍛えなくても結果が出せる簡単な世界だったら、誰もモチベーションを持たないでしょう。練習もしないと思います。

でも、厳しいレベルが求められる野球界なので、選手にとってはそれがモチベーションになり、頑張れる基盤になっているのです。


人間は、自分の能力をはるかに超えたことについては「馬鹿馬鹿しくなり」モチベーションをもてませんが、その人の最高基準の仕事を求めると人間の本性に合っているので動機付けになるのです。

人は働くことを求めています。

積極的な動機付けは、仕事を中心に位置づけるものなのです。


最後に、ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)から引用をして、人材開発のまとめにしたいと思います。


私はプロ野球を例に話を進めてきました。

ドラッカーは、知識を基盤とする企業にもっとも似た組織がオーケストラだと言っています。

そこで、企業のマネジメントの立場と同じ者として、オーケストラ指揮者について、次のように述べています。


優れた指揮者は、各演奏者、各パートとの接触を深める。雇用関係は与件であって、メンバーは変えられない。したがって、成果をあげるのは指揮者の対人能力である。

企業の幹部たる者は、オーケストラの指揮者ならば当然のこととしていることを知らなければならない。優れた組織をつくりあげる鍵は、働き手の潜在能力を見つけ、それを伸ばすことに時間を使うことである。



ここで、マネジメントは、社員の潜在能力を伸ばすことに時間を使えということが語られています。


世界一流のオーケストラをつくるには、第一クラリネット奏者が指揮者の望む演奏ができるまで、一緒に何度も同じ楽節をリハーサルすることである。同じことは、企業内研究所の研究部長が行うべきことである。


プロ野球でも、コーチが付きっきりでバッティング練習や守備練習をしていますね。

それこそ、コーチは相当な時間を選手に使っています。

マネジメントは、社員の強みを知り、自分のことも知ってもらわなければなりません。また、社員を導き、励まし、高い目標に目を向けさせ、仕事に挑戦させなければならないのです。


なかなか人が育たないという悩みを持った管理職者の人はたくさんいるでしょう。

では、社員の人材育成にあなたはどれだけの時間を使っていますか?

1週間、1か月、半年、1年と、どれだけの時間を使ったでしょうか?

人材の配置に関して、どれだけの時間を使って考えましたか?

これらの時間が少ないのならば、おそらく人材育成はうまくいっていないはずです。


「そんなん、人に割ける時間なんて、あるかい!」と思われたかもしれませんね。

しかし、知識社会では、成果をあげるのは知識労働者です。

企業の成功だけではなく、存続の鍵を握っているのも知識労働者です。

すなわち、知識労働者の人材育成が、企業の存続の鍵なのです。

だったら、それに時間を使うことが一番優先順位が高いということになりませんか?


いろいろと述べましたが、オーケストラのリハーサルはなかなか見る機会はないと思いますので、プロ野球の練習を思い出していただき、「付きっきりで練習をすることを我社に当てはめたら、どうなるのだろうな」と考えていただくといいです。

ただし、動機付けとなる高い基準の仕事を求めることがないと、ただのシゴキになりますので、気をつけてくださいね(笑)。
 
 

目標管理のコツ

 
人事考課に「目標管理」を使っている企業は多いかと思います。

しかし、うまく運用できている会社はほとんどないのではないでしょうか。

 たいてい、目標管理を成果主義と合わせて、人事考課をし、給与を決定していると思います。
これはうまくいきません。

例えば、評価が、S、A、B、C、Dの5段階に分かれているとします。

こんなに細かくして、5段階のどこかに正確に当てはめる人事考課ができるでしょうか?

社員の仕事を正確に数値化して分類できるでしょうか?


できないですよね。

もし”できる”という会社があっても、たぶんそこで働く社員は納得していないでしょう。


極端なことを言いますよ。

人の評価を正確に数値化できると思っている経営者や人事がいるとしたら、それは社員に文句を言われないようにするために、できていると思っているだけじゃないでしょうか。

例えばですね、昨年度が同じ給与の人が二人いるとして、来年度AさんがBさんより、月額3,000円給与が増えるような人事考課をしたとします。

3,000円の差を生み出した仕事の差(成果の差)の説明ができますか?


普通はできないでしょう。

もし、ものすごく成果に差があったら、もっと差をつけてもいいでしょう。

でもほとんどの会社は月給レベルで3万円の差がでるような昇給はしないのではないでしょうか(管理職になるときは別ですよ)。

月給の数千円の差って、なんで?って思うと思いますよ。本人が知らないから、問題にならないだけだと思います。


成果主義の人事考課制度を導入したところは、ほとんどうまくいっていないでしょうけど、歩合営業の会社のようなところでないかぎり、人の成果を客観的に完璧に数字で表すのは無理なんです。

じゃ、どうすればいいかを次に考えてみましょう。

目標設定の仕方

 
私は目標に対し3段階の評価ならできるのではないかと思うのです。

例えば、「期待を上回った」、「期待どおり」、「期待したレベルに至らなかった」の三段階ですね。

設定した目標に対し、上司が部下の成果を見て、「期待を上回ったかどうか」なら、判定できると思うのです。

5段階に分けると、SとAの違いに説得性があるかどうか微妙ですが、期待を超えた成果なのか、期待したほどではなかったのかは、上司なら判断できるのではないでしょうか。

ただし3つの段階の評価について不服がある場合は上訴できるようにしておくといいでしょう。それも2階層上まで、上訴できるようにしてあげるのです。

仮に、代表取締役、取締役、部長、課長、係長という組織構造だとします。

そして、係長が評価されているとして、その人事考課に不服な場合は、直接の考課者の課長に意見を言えるだけではなく、部長まで上訴できるようにしておくのです。


それから目標管理でのポイントは目標の設定の仕方です。

目標管理はドラッカーが編み出したものですが、ドラッカーは上位の部門の目標設定に管理職者は積極的に参画しなければならないと言っています。

例えば、課長だったら、会社全体の目標を理解した上で、「自分たちが所属する部門の目標はこれくらいがあるべきであり、そのために自分たちの課はこれだけの貢献をします」と、能動的にコミット(積極的に関わる。約束する)する必要があるのです。

たぶん、このドラッカーが意図した目標管理ができる日本企業は少ないと思います。

日本企業は19世紀型の上意下達型の企業が多いと思うので、下から上へ目標設定をしていくことは難しいでしょう。

そこで一つの方法としては、上位部門が下位部門の目標を提示し、それを下位部門が納得するまできちんと話し合う方法です。

ここでは”部長と課長”との目標のすり合わせを想定します。

部長は課長に対し、「今期は1億円の売上を目標にしようと考えている。どうか?」と聞きます。

課長は「いや、部長、それは無理です。なぜなら、○○製品の量産が遅れています。よくいっても8,000万円です」とかになるのです。


その時に部長は三つのことを聞いてください。

1.では、1億円の売上高を上げるために会社や部門が支援すべきことはあるか?
(何かを新たに支援すれば、目標を達成できるか?)

2.成果を上げるために、必要とする知識は何か?それは会社が提供できるものか?

3.現在、会社や部門が障害となっていることがあるか?
(成果を上げるのを妨げているような「仕事の仕方や時間の使い方」はあるか?)

これを聞いて会社や部門が実行できるものであるなら、それを実行することを課長に約束し、目標設定をするのです。

そうした双方向の責任ある行動によって、目標管理は意味のあるものになります。

 

社員の成果の障害になっている仕事

 
目標を設定するときに、「会社や部門が障害となっていることはないか?」を聞いてくださいと書きました。

 この点を少し補足したいと思います。

会社や部門が”無意識に”「社員が成果を上げるのを妨げている」場合があります。

簡単に思いつくのは、報告だけの会議でしょう。

でも、もっと隠れていて、分かりにくいものがあります。

それは仕事の中にあります。
 
一つは「慣習的に昔からやっているけど、成果があがらない仕事」です。

 あるいは、「経営幹部に深いこだわりがあって、やめられないけど、成果があがっていない仕事」です。
 
やめられない理由と聞くと、妙に納得してしまう理由があるのですけど(笑)、成果があがっていないことは辞めるべきです。

もし、すぐに辞められないなら、期限を設定して、それまでに基準を達成しなければ、その仕事を廃棄すると決めなければいけません。


それから、権限が与えられていないので、すべて上司に伺いをたて、それまで動くことができないというケースもあります。

目標管理では、現場に「貢献という責任」を持たせますが、同時に権限も与えます。

日本の会社だと、人をコントロールする意識が強いと思うのですが、現場に権限を与えずに、結果だけを追求するとおかしくなってしまうのです。

責任と権限がない仕事を部下にやらせていると、仕事ができない部下はたいして困らないでしょう。

でも、有能な部下は苦しくなって成果を上げなくなります。まぁ、段々受け身になって、無難な動きしかしなくなりますね。

社員に成果を上げてもらうことは、会社の願いと一致しているはずです。

会社や部門が社員の仕事を妨げていないか、障害になっていないかを社員から直接聞いて、改善につなげるといいですよ。