現代のルネサンス──制度の外にある人間の光を見つめて
かつて中世ヨーロッパでは、教会が人間の生き方を規定し、「人間は罪深い存在である」とする構造が社会の中心にありました。
その中で、ヘルメス・トリスメギストスの思想──「人間は光を宿す存在である」という語りが再発見され、ルネサンスという静かな回帰が始まりました。 それは、神ではなく人間に光を当てる思想であり、制度ではなく個の尊厳に立ち返る営みでした。
ルネサンスの時代、人は「罪深い存在」ではなく、可能性と美を宿す存在として見つめ直されました。 絵画では人物の表情や身体が細やかに描かれ、人間の内面や感情が芸術の主題となっていきました。 哲学や文学では、「人間とは何か」「どう生きるか」という問いが再び語られ、個人の思索や選択が尊重されるようになったのです。
それは、人間がただ制度に従う存在ではなく、自ら考え、感じ、選び取る力を持つ存在として、社会の中心に立ち始めた瞬間でした。
──そして今、私たちの社会にも、中世ヨーロッパに似たような構造があります。 制度や効率、成果を重視する現代の仕組みの中で、「枠に収まらない人」「声なき声」が見えなくなっている。
それは、教会的な“罪の構造”ではなく、制度的な“適応圧”によって、人間性が覆われている状態かもしれません。
私は、政府や行政を否定するものではありません。 むしろ、制度の中で働く人々にも、誠実に向き合っている方がいることを、私は感じています。 けれども──制度の外にある「人間の光」に、もう一度、静かに光を当てたいのです。
問いによって、言葉にならない願いを引き出す。
語りによって、その人の尊厳をそっと照らす。
それは、叫ばず、争わず、静かに社会の深層を揺らす営みです。
私は、これを「現代のルネサンス」と呼びたいと思います。 それは、制度を壊すものではなく、制度の外にある価値を見つめ直す、人間回帰の実践です。
問いと語りによって、誰かの内側に灯りがともる── そんな営みが、静かに広がっていくことを願っています。