| 和をもって戦う経営とは |
すると、共通している回答がありました。
それは社員に関することです。
例えば、「20代の社員が仕事ができない(「言葉が通じない」もあります)」であるとか、
「頼んだことしかやらない」とか、
「技術の継承ができていない、後継者が育っていない」だとか、
あるいは「社員のモチベーションをどのように上げていけばいいのか分からない」とか、
「どうすれば社員が戦力になるのか、分からない」とか、
「30代の社員が少ない」など、人に関係する課題ばかりでした。
日本では不況期がしばらく続き、リストラがあり、教育研修に時間やお金を使わない時期がありました。社員に目を向ける余裕がない会社も多かったのではないかと思います。
また、欧米の経営手法を取り入れるところも多く、それらの負の遺産が今の社員に現れているように思えます。
売上などの数字より、社員の問題に悩まれている企業が圧倒的に多いと感じています。
そうした社員のことで悩んでおられる経営者に対し、私はある考え方を提唱していきたいと思っています。
それは、「和をもって戦う経営」です。
聖徳太子が制定した十七条憲法の第一条に「和を以て貴しとなす」という言葉があります。
私はこの「和」という言葉に、日本人が本来持っていた高い精神性を見つけました。
「和の経営」は「仲良しクラブ」のすすめではありません。
厳しいビジネス競争を勝ち抜くために、経営トップから実践する真剣な経営手法です。
「和」を現代のビジネス社会に的確に展開することによって、会社組織は強くなり、業績は必ず上がるでしょう。
そこで今回は、「和の経営」の基となる「和の組織」について説明しましょう。
ところで、「和の組織」というと、年功序列組織を想像されるかもしれません。
しかし、私の考える「和の組織」とは、年功序列ではないのです。年齢に関係なく実力のある人が上に立つことを良しとしています。
では、何が今までの組織と違うのかといいますと、上司には部下への愛があり、部下は上司に敬意を払うところです。
「和の組織」の要素は大きく6つありますが、まず最初の要素を述べたいと思います。
1.上司は、部下に対する愛があり、優しさと厳しさを兼ね備えた人物であること。【仁】
会社の仕事は、ライバル企業との競争の中にあります。甘いことを言っていては、倒産する可能性が高いです。
当然、経営には厳しさが求められますし、日常の仕事にも厳しさがいるでしょう。
そして、厳しさが部下を育てることもたくさんあります。
ただし、「ただ厳しいだけの上司」では部下はついていきません。自分の地位を守るために部下に厳しくあたっていたら、部下の心は離れるでしょう。
厳しい中にも、部下への優しさをもってください。思いやりをもってください。
私はこの優しさを、儒教の五常「仁・義・礼・智・信」の中の”仁”(じん)と見ています。
仁とは、思いやりの心で万人を愛し、利己的な欲望を抑えて礼儀をとりおこなうことです。部下に対しても仁の心で接していただきたいのです。
ところで、優しさと厳しさのバランスが難しいという方もいらっしゃるでしょう。
目安となる考え方をお話します。
a) 部下が知らないことを教える。
知らないことは教えてあげないと、本人が知るまでは同じことを繰り返します。それゆえ、時間を取って部下が知らないことを教える必要があります。
しかし、これは時間と手間を要することなので、あまりできることではありません。特に50歳代以上は、知らないことを教えるのは、意外にできていないのではないでしょうか。
「こんなこと分かっているだろう。常識だぞ。」というのは危険です。
知らないことは”できません”ので、部下あるいは若い方が知らないと思ったら、きちんと教えてあげることです。
ここを怠ると、いつまでも無駄なことが続きます。特に「ゆとり世代」の若手には、細かく教えてあげることです。
「ゆとり世代」について、もう一点付け加えるなら、ある行動が次にどういった結果につながるのか、他にどういった影響を及ぼすのかを教えるのも大事です。
自分の行動した結果が、他にどのような影響を及ぼすのかが分かっていない人はいます。
場合によっては、お客様のところに行く集合時間に遅れたら、どういった影響が出るのか、そういったレベルから教えることもあるでしょう。
中高年のビジネスマンからすれば根気のいる話かもしれませんが、若い社員の将来のためにも教えてあげて下さい。
b) 部下が間違っていることは、注意又は指摘をする。
間違っていることを注意するときのポイントは、怒るのではなく、叱ることです。
怒るのは、感情的になって言葉を発するパターンです。叱るのは、相手を導くために教育的な見地から指摘するパターンです。
怒るのは私情で、叱るのは公憤というイメージですかね。仁の心で相手の成長を願って、間違っているところを注意してあげることがいいです。
c) 部下の失敗は上司の責任である。
部下がミスをしたり、営業成績が上がらなかったりすることも多いでしょう。それを部下のせいにして部下を責める上司はたくさんいると思います。
でもそれは「和の組織」ではありません。
部下が行った結果は自分の責任だと受け止めて、どう改善すればよいか、どうリカバリーするかを考えるのが大切です。
そして、自分の責任として受け止めた上で、部下に失敗した原因を気づかせてあげることも必要です。
上司が全部答えを示すのではなく、部下自身に考えさせて、答えを出させるようにするとより良いでしょう。
失敗からただ転ぶだけではなく、教訓を学び、部下の成長にも役立てるのです。
その過程で、上司も部下以上に成長するでしょう。これも組織の和を重視した「和の組織」の利点です。
部下の仕事ぶりや普段のさりげない行為など、上司として不満なことはあるでしょう。
また、部下が理不尽な不満を上司にぶつけてくることもあるかもしれません。
しかし、部下の気持ちを一度受け止めてあげてください。頭から否定するのではなく、受け止めてみるのです。
そして、部下のことを認めてあげるのです。そこに上司と部下の信頼が生まれてきます。
これは言葉で書くほど、簡単なことではありません。
上司にもそれなりの胆力がいります。自分の感情をコントロールする力もいります。
でも、部下のことを「いつでも私は受け止めるのだ。」と思っているかどうかで、全然態度が違ってきます。対応が違ってきます。
e) 部下の良いところ褒める。強みを伸ばしてあげる。
部下の良いところは、言葉に出して褒めましょう。部下にとっては自信になるときもありますし、本人が気づいていない強みが分かるときもあります。
良いことをしたら、必ず褒めることです。
日本人は言葉に出して褒めるのが上手ではありません。意識して、言葉に出すようにしてくださいね。
そして、部下の強みを活かせる仕事を、自分の権限の範囲で割り振ってあげることです。
さて、これまでは「和の組織」の説明で、上司に重きを置いた指針を書いてきました。組織はいくら下位の社員が頑張っても、上位の社員がそれを潰してしまうと終わりになってしまいます。
それゆえ、組織は経営トップから順に上位者ほど先に意識を変えていかなければなりません。
そうした理由から、組織の上にある者の姿勢を先に述べたわけです。
では、一般社員や、あるいは中間管理職等への指針はどうなるかということになります。
それは第二の要素、礼です。
2.部下は、上司に敬意を払う。又、職位の上下を問わず、相手には敬意を持つこと。【礼】
上司が自分より年齢が下だという場合もあるでしょうが、年齢等に関わらず、上司には敬意を払うことです。
武道では「礼に始まり礼に終わる」といい、相手に敬意を払う面がありますが、儒教の礼が私の中のイメージです。
新渡戸稲造の『武士道』に、「礼は、仁から生じるものとされていて、社会的地位に対し相応の敬意を払うことである」と書かれています。
また新渡戸は「礼は、その最高の形においてはほとんど愛に近づく」と言い、次のように述べています。
「礼は長い苦難にも耐え忍び、親切で妬みの心を持たず、誇らず、驕らず(おごらず)、非礼を行わず、自分の利を求めず、憤らず、慢心しないことだ」と。
新渡戸の書く”礼”は厳しい内容ですから、私なりに絞り込んでみます。
礼とは「上長に対し敬意を払うこと。そして、妬みの心を持たず、驕ることなく、非礼を行わないこと」です。
そうした心がけが部下としては大事です。
また、上司の立場にある人でも、部下が年長者ということもあるでしょう。
人生の先輩に対し、たとえ今は部下であったとしても、敬意を払うことは大切です。
上司として指揮命令は当然必要ですが、年長者に対する敬意を忘れてはいけないのです。
そして、和の力を使って、人々を幸福にする。【義】
人材について教育が大事なことは元よりですが、入口のところ、すなわち採用に力を入れることも重要なポイントです。
人を採用するときには、貴社の大切にしている価値観を応募者に提示し、その価値観に共感できる人を採用すべきです。
考え方や思想を「全く同じくする人」を集めよということではありません。
あくまで、価値観や仕事観などで一致する部分をもっている人を採用するということです。
貴社には貴社のゆずれない価値観や仕事観があると思います。
貴社の価値観を、面接時や会社説明会の時に正しく説明をして、それに本音で共感できる人を迎え入れると良いでしょう。
そして、入社してからは、共通の大きな目標を持つことです。
まずは全社の目標。そして部門の目標という形で、全社員が共有する目標と、部門メンバーが共有する目標を持つようにします。
会社はチーム、組織による勝負事です。
野球でも同じでしょうが、個人の成績だけではなく、チームとしての優勝という目標があるから、より高みを目指しやすいということもあります。
また目標は大きいものほど社内が明るくなります。中途半端な目標だと、社内は得てして暗くなります。
社員が夢を持てるような、明確で、やりがいのある大胆な目標を掲げてみましょう。
私は「和の経営」をすすめる中で、「戦う」という言葉を入れています。
その理由は、和という言葉にとらわれて、内向きにならないようにするためです。
組織の和を意識して、事なかれ主義になるのではありません。
企業経営は真剣勝負ですから、議論すべきことはきちんと議論をしたほうが良いです。喧嘩に近いことも起こるかもしれません。
ただ、そこに、仁の心や礼が必要だと考えています。
そして目標です。
内にこもるのではなく、大きな目標を持って、和の力を「外に活かしていただきたい」のです。
発展のための和であってほしいし、社会に貢献するための和であってほしいと思います。
組織の和の力を使って、関係する人々を幸福にしていってほしいと願っています。
儒教の五常の五徳に例えると、この3は「義」に当たると考えてます。
「義は利欲にとらわれず、なすべきことをすること」です。
大きな目標は、利欲にとらわれていると浮かびません。
経営者が、どこかのタイミングで、突き抜けたときに「本当に高い目標」は生まれます。
そのときは、利欲の気持ちが薄れ、自分のなすべきこと(ミッション)は、”これだ”と気づいたときだと思います。
そうしたレベルで起こるものが、この3つ目の「義」の内容なのです。
現代は知識が陳腐化する時代なので、学習を怠りなくする必要があります。
自分が持っている知識は古くなると考えて、常に新しい知識を得たり、古い知識でも、普遍の知識であるものを学び続けたりするのは大事だと思います。
また特定の人だけではなく、組織全体に学習が習慣化するように指導すると良いでしょう。
そのためには、制度として、学習を習慣化させる工夫があるといいですね。
例えば、資格取得に対して手当制度を設けるとか、学習した内容を発表する会を設けるとか、朝始業前に勉強会をするとか、土曜日に野外学習を企画するとか、色々な方法はあると思うので、いくつか試してみるといいですね。
また、ここでは、「悪の知見を持っておくこと」も述べています。
ベネッセの顧客情報の事件がありましたけども、どういった場合に人は悪いことをするのかは知っておかなければなりません。
これを知っておかないと、お金を持ち逃げされたり、顧客情報が盗まれたりします。
人がどういう時に間違いを犯しやすいのか。そして、どういう間違いをするのかを知っておくことは必要です。
単なる「お人好し」ではいけません。
人の心にスキを作らせない体制も準備する必要があります。
「和の組織」を唱道してはいますけれども、その和は「悪を簡単に犯させるもの」であってはいけません。
人がどういう心になったらおかしなことをするのか、どういう立場になったら、間違ったことをするのか、それらを知っておいた上で、役員や社員が悪を犯さないようスキの無い手を打っておきましょう。
スキのない組織、システム、体制を作るのも「和をもって戦う経営」の一部です。
学習習慣と、「悪を犯させないシステムの準備」などのある、この4を、私は儒教五常の「智」と位置付けています。
残っているのは”信”ですね。
信には、二つのベクトルがあります。
一つは、自分から外へ向かうベクトル。もう一つは他者から自分へ向かうベクトルです。
具体的には、前者は、人を欺かず誠実であること。後者は、人から信頼されることです。
5.誠心誠意、熱意をもって仕事をすること。
その時代に、その企業に出会えただけで幸せだったと
新渡戸稲造は『武士道』の中で、「信すなわち誠がなければ、礼は茶番や見世物になってしまう。」と述べています。
五常の徳目を全て支えているのは、この「信の考え方」だと私は思っています。
信とは、誠実であること、約束を守ることです。嘘をつかないこと、正直であることです。
ビジネスにおいても、誠実にお得意先に接する。そして、自分の仕事に打ち込んでいく熱意が大切だと思います。
自分の仕事に熱意があるかどうかを、振り返ることが必要です。この振り返りは 習慣にするといいですね。
そうして、誠心誠意、熱意を込めて仕事をした後の、究極的な姿が後半部分に書いてあります。
この後半で言わんとしていることを、個人のレベルで書きますと、
「あなたがいてくれたから、この会社で働きたいと思った」とか、
「あなたと一緒に仕事が出来て、ほんとうに幸せだった」とか、
「ほんとうに会社にいてくれるだけで有難い。よくぞ、あなたのような方がいたものだ。」というようなレベルです。
何かをするから有難いとか、何かをしてくれるから良いとかではなく、存在自体が社員の幸福に貢献している状態です。
これを個人レベルから会社組織レベルまで拡大すれば、何かのサービスを提供するから良いのだということではなく、その企業の存在自体が、その時代の光であるようなイメージになります。
「信頼される」というレベルでは、
「その企業があるだけで、その企業に出会えただけで生まれてきた甲斐があった、生まれてきて良かったと思っていただけるようなレベル」を目指していく。
それが「和の組織」の最終目標になります。
さて、「和の組織」を儒教の五常に基づき、5つの徳目で体系化を試みました。しかし、これだけではどうしても足らないので、1点追加したい徳目があります。
それは、「勇(勇気)」です。
これは、「事業を発展させる基礎は、徳なんだよ」ということですね。
孔子は徳はいつくもの要素から成り立っているが、とりわけ重要なのは「智・仁・勇」だと述べています。
6.五つの徳目の行動原理は勇気である。
刀折れ矢尽きたときには、勇気という武器を使え。【勇】
学んだことを実践するには勇気が必要です。行動の原理になるのは、勇という徳目です。
ビジネスは厳しい競争の中にあるので、物おじしたり、おっくうになったりして、前に進めないこともあると思います。
右に行くべきか、左に行くべきか、結論が出ないこともあるでしょう。
そういうときに力を発揮するのは、勇気ある行動です。
勇気が前に進む力を与えてくれます。
また、仕事をしていますと、何度か勇気を試される時があると思います。
大きな仕事を任せられたときや、その仕事に自信が持てないときなど、最後は勇気を振り絞って「やるしかない」こともあります。
努力はした、準備もした、もう全てやりつくした。でも、恐怖感だけは残ってしまうことはあるでしょう。
そういうときには勇気が最後で最大の武器になります。
色々と勉強したけれども、現状がうまく突破できないときがあるかもしれません。
そのときは、勇気という言葉、勇気という考え方を思い出してください。
ビジネスの実践において、大事な考え方だと思うので、勇を追加したいと思います。
儒教の五常を参考にしながら、「和の組織」の体系化を試みてみました。
「仁・礼・義・智・信・勇」の6つの徳目です。
「和をもって戦う経営」とは日本的精神である”和”を元にした経営です。
そして、その組織の中心的な考え方を儒教の五常に関連させながら体系化し、勇をプラスすると次の六つの柱ができます。
1.上司は、部下に対する愛があり、
優しさと厳しさを兼ね備えた人物である。【仁】
a) 部下が知らないことを、教える
2.部下は、上司に敬意を払う。
又、職位の上下を問わず、相手には敬意を持つ。【礼】
f)妬みの心を持たない
g)驕らない
h) 非礼を行わない
3.共通の価値観を持った人材を集め、共通の大きな目標を持つ。
そして、和の力を使って、人々を幸福にする。【義】
4.常に学ぶ姿勢を持ち、組織全体に学習を習慣化させる。
そして悪の知見も持っておく。【智】
j)業界のプロを目指す
k)業界を超えた視野と見識を持ち、その広い視野を使った行動力を見につける
5.誠心誠意、熱意をもって仕事をする。
その時代に、その企業に出会えただけでも幸せだったと
n) その企業に出会えただけで、生まれてきて良かったと思ってもらえるような存在を目指す
o) 交渉する勇気
p) 断る勇気
q) 信じる勇気
r) 行動する勇気「1.仁と2.礼」が、個人単位での考え方の方向性を打ち出しています。
「3.義と4.智」が、組織単位での戦略と戦術に関して述べています。
「5.信と6.勇」が、全体の基礎となる考え方と、到達すべき最終目標と行動原理となっています。実践面に重きがおかれていると考えてください。
「和をもって戦う経営」を行いましたら、外に現れる姿は、”美”(び)になると思います。
和は調和を表しています。調和から発せられるものは、美になっていくはずです。
企業経営で美と言うと不思議な感覚を持たれるでしょう。
しかし、「和の経営」が出来ましたら、仕事ぶりに美が現れたり、商品やサービスに美が現れたり、社内に美が現れたりすると思います。
もし今の経営で美が現れていなかったら、美を感じることができなかったら、経営に不調和なものがあるということかもしれませんね。
色々と書きましたが、皆様の参考になりましたら本当に幸いです。
