仏教的トップマネジメント10か条


四年間公開しなかった「仏教的トップマネジメント10か条」を、こちらに公開します。

実は「仏教的トップマネジメント10か条」というのは、先に公開した「仏教的経営成功法」の元になった体系です。

私は、四年前に「仏教的トップマネジメントの10か条」を編み出していました。そして、それを経営手法的に体系化したものが、「仏教的経営成功法」だったのです。「仏教的トップマネジメント」は、仏教を経営に応用した仏教的シリーズの根幹となる思想なのです。


10か条は、下記のとおりですが、青字のところは、条文を仏教的な専門用語で当てはめた言葉ですので、条文としては、黒字のところのみをご覧ください。

 人が理解しやすく、修得しやすいようにするには、段階を追って学べるようにするのが良い方法になります。それゆえ、10か条は段階論で体系化しています。

段階論なので、第1条をクリアして、第2条に進むというものになっています。もちろん、完璧な修得はありえないので、「良しとする」レベルに到達すれば、次の段階に進んでください。


そして、この10か条を修得するには、トップマネジメント各人が、1条、1条を考え抜いて実行する必要があります。

この修行の流れを仏教では、三慧(さんえ)と言います。

 
三慧とは、
聞慧(もんえ)-聞いたレベルの知恵
思慧(しえ)-自分なりによく考えた知恵  
修慧(しゅうえ)-実践によってつかんだ知恵の三つからなる知恵です。

10か条は、思慧(考え抜くこと)と、修慧(実践すること)がポイントです。

では、1条ずつ解説をしていきます。

第1条及び第2条


仏教的トップマネジメントの第1条は、次のものです。

1.不退転の自己変革を発願せよ!


<字句説明>

「不退転」(ふたいてん)は、仏教用語です。修行の段階で退歩することのなくなった境地のことを指します。何があっても退かず屈しないことですね。「発願」は、”ほつがん”と読みます。これも仏教用語ですが、神仏に対し誓いを立てるという風に捉えてください。仏教用語が苦手な方は「志」(こころざし)に置き換えても結構です。儒教的に「絶対に逃げない自己変革の志を立てよ!」でもかまいません。


<解説>

この第1条は、トップマネジメントに対し、かなり厳しいものを要求しています。自己変革とは、自分を変えていく意思と行動のことです。言葉としては、短い文章なのですが、ほとんどのトップマネジメントが、この第1条をクリアできないと思います。

そんなことを言ったら、残りの9条まで全然進まないということになりますが、残念ながら、そのとおりです。

自分を変えていくことほど難しいことはありません。ましてや、一国一城の主である社長(トップマネジメント)はプライドがあります。成功してきた自負を持っています。


みなさんは、他人のアドバイスを素直に聞けますか?
実行できますか?
自分の至らないところを反省して、悔い改められますか?

普通は”できない”と思います。人間は、そうしたものです。

しかし、この第1条の関門をとおり抜けない限り、他の9条を知っても意味はありません。自分を変えていく意思がない人は、どれだけ学んでも、知識を得ても、人からアドバイスをもらっても、素通りするか、曲がってしか伝わりません!

素直に自分を改善させて向上していく意志がなければ、何を知っても無駄です。心地よいことだけを聞いて、耳が痛いことを聞かないことになってしまいます。



それと、この第1条には、”不退転の”という言葉がついています。つまり、「決して一度も、しりぞかないぞ!」という意味が込められています。

一回や二回、素直に聞いたってダメなんです。その後、天狗になって、自分を変えようとしなかったら、もう元の木阿弥です。「何があっても屈しないぞ!」という強い決意が必要なのです。

だから、第1条を、あえて「発願」という仏教用語で結んでいます。本来なら、「自己変革を決意せよ!」でいいのでしょうが、そんな簡単にできるものではないので、自分自身への戒めを含めて神仏へ願を立てる発願という言葉を使っているのです。

発願については、井上靖さんの『天平の甍』を読まれると参考になります。この本には、命を懸けた渡海で日本に来た鑑真和上のことが書かれています。その中に、四度渡海に失敗して失明した鑑真和上に「なぜそこまでするのですか」と質問するくだりがあります。そこで、鑑真和上が答えたことが、「仏に一度発願したことをたがえることができようか」ということだったのです。

要するに、「授戒を教えるため日本に渡ります」と、御仏(みほとけ)に願を立て祈念したのに、自分からそれを辞めるということは全くあり得ないということなのですね。鑑真和上は考えられないような大変な苦難に会っているのですが、御仏との約束は、自分の命のレベルよりもはるかに尊いということなのです。

私はここを読んだ時に魂が震えるような感覚がありました。発願とは、それほどまでに重く、尊いものなのかというものです。同時に、軽々しく発願という言葉を使えないとも思いました。ただし、自分の人生の目標のような重要なことに対しては「発願」を使って、不退転の意志を持とうと考えたのです。

自分を変えていくことに対し、逃げない強い意志を持ってください。この意志が全てのスタートです。  


次の第2条は、次のとおりです。

2.他の人からしてもらうことで、自分が幸福になれると思うな。


<理解を深めるための補足文>

他の人からしてもらうことで、自分が幸福になれると思うな。過ぎたる欲は、会社と自己を滅ぼしてしまう。執着を去れ!



<解説>

この第2条も仏教思想が強く入っています。仏教では、すべての苦しみは「過ぎたる欲」、すなわち”執着”によって起こるとされています。
 
事業の失敗などの経営の苦しみの原因は、元を正せばトップマネジメントの執着である場合が多いので、「仏教的トップマネジメント」の第2条で、苦しみの根源である執着を去ることを書いているのです。


ここで思慧(しえ。考えること)のポイントを説明します。
 
「他の人からしてもらうことで、自分が幸福になれると思うな。」は、二つの視点から思慧してください。

一つは、自分の幸せが他人の行為によって決まるのではないという視点です。

自分が「他人から何かを与えられたら幸せになる」というのでは、自分の幸せは「他人次第だ」ということになってしまいます。
 
他人から好かれたら幸福なのが人の情です。しかし、何かをしてもらわないと幸福な感覚が生まれないのなら、常に受け身の幸福感ですよね。

 
トップマネジメントは、特に社員や外部の人の評価を気にするでしょう。「凄い社長!」と評価されたら嬉しいでしょう。ところが、評価されないのならば不平不満の心境になるというのではいけないのです。 

されど、ほとんどのトップマネジメントが他人の評価を得ようと苦しんでいるのではないでしょうか?

それは幸せの価値基準が自分の内ではなく、外にあるという証拠なのです。この心境で生きていくと、しんどいですよ。いつも他人の評価を求めますから。


二つ目の視点は、他人から何かをもらうことで幸せになる発想をしている人の愛は、奪うものだというものです。いわゆる「奪う愛」です。相手から愛を取ろう、もらおうとする行為です。

こういう人は結局幸せになれません。なぜなら、「愛を奪おう、もらおう」という人は、他の人から好かれないからです。また、「類は友を呼ぶ」で、自分と同じような愛を奪う人が近づいてきます。すると愛の取り合いになって、嫌な思いをしてしまうのです。

しかし、奪う愛に生きている人が幸せになるのは簡単です。逆のベクトルを働かせればいいのです。与える側に回ればいいのですよ。与える愛に生きていこうと、心を定めることです。


会社を経営していくには、強い願望が必要な面もあります。されど、それが度を過ぎた自己中心的な欲望になると、トップマネジメントを腐敗させるだけではなく、会社も腐敗してしまいます。あるいは、会社を間違った方向へと導いてしまいます。

どうか自分の愛が奪う愛になっていないか、他人の評価をもらうことばかりを考えていないかを内省してみてください。
 
それで、もし奪う愛になっているなら、与える愛に舵を切ってください。すべての苦しみの元は、過ぎたる欲である執着なのだということを知ってください。

第3条及び第4条

 
仏教的トップマネジメントの第3条と第4条は関連していますので、一緒に解説します。

3.経営の第一の核は、トップマネジメントの心である。

4.経営の第二の核は、トップマネジメントの知識である。



<理解を深めるための補足文>

経営の第一の核は、トップマネジメントの心である。与えられているものに感謝し、利他の思いを持つところから経営は始まるのである。あなたの愛を先に与えよ!

経営の第二の核は、トップマネジメントの知識である。トップマネジメントは見識の不足がないよう常に学ぶことを忘れるな。そして組織にも学習を習慣化させよ!



<解説>

第一条から第3条までは、トップマネジメントの精神性を強調してきました。第4条からは、経営に関する具体的な知識が入ってきます。

そして、第3条と第4条は、「仏教的経営成功法」で取り入れた内容の元になっている部分です。

「仏教的経営成功法」では、経営の核は、「経営トップ(=トップマネジメント)の心」と「経営トップの知識」であると説明しています。それゆえ、経営に危機が訪れている場合は、経営トップの心が間違っているか、知識が不足しているか、その両方であるということです。

そこで、「仏教的経営成功法」には、経営トップの心を正す方法と、どのような知識を吸収すればよいかを述べました。この辺りは「仏教的経営成功法」に詳しく書いているので、ここでは簡単に「心を正す方法」について説明します。


まず、経営トップの心を正す方法は、仏教思想の八正道(はっしょうどう)という反省修法を応用します。八正道の正見(しょうけん)、正思惟(しょうしゆい)を使って、間違った心を振り返る方法です。

間違った心の代表的なものは「経営トップの心の四毒」といい、仏教の六大煩悩を参考に、私が分類し名付けたものです。それは、貪・慢・癡・瞋(読み方、とん・まん・ち・じん。貪欲、慢心、愚かさ、怒り)の四つであり、これらを中心に心をチェックします。 


経営は、トップマネジメントの心で方向が決まります。トップマネジメントの心が組織を活性化させることもあれば、腐らせてしまうこともあります。

トップマネジメントの思いの強さが、企業の発展を左右します。トップマネジメントが利己的な心を持っていて、えこひいきした人事政策を取るならば、会社は堕落します。かといって、トップマネジメントの心が正しいだけでは、=(イコール)企業の発展繁栄ではありません。なぜなら、心の正しさ以外にも、成功に必要な要素はあるからです。

しかし、トップマネジメントの心が悪であるなら、=(イコール)企業の堕落に当てはまります。その理由は、企業の成果は次の掛け算にて合計されるからです。

成果=心×知識×行動

企業で働く人全員の「心と知識と行動の掛け算」によって企業の成果は生まれます。ただし、トップマネジメントの心がマイナスであれば、掛け算なので、全部がマイナスになるのです。

トップマネジメントは、現在与えられているものに気づいてください。

確かに相当な努力をされて経営トップの一員になられているでしょう。しかし、自分一人の力で社長になったのですか?役員になったのですか?管理職になったのですか?今まで助けてくれた部下や先輩や上司がいませんか?助けてくれた家族や友人がいませんか?何より、あなたの会社のサービスや商品を買ってくれたお客様がいるのではないですか?

決して自分一人の力で今の地位にいるのではないはずです。あなたの存在自体も両親のおかげで存在しています。それらへの感謝をしていますか?

経営は与えられたものへの報恩行
だと私は思っています。


たくさん与えられたことへのお返しの行為です。お父さんやお母さんに命をいただいた”お礼”にお客様へサービスをするのです。だから、経営のスタートは利他(りた)なのです。人に喜んでいただこうという思いからスタートするのです。


第2条で述べましたが、自分が人からもらうことではなくて、まず自分から愛を与えていこうと思うことです。

21世紀は、こうしたことをまじめにトップマネジメントが考えている企業が発展繫栄していきます。ソーシャルメディアが発達し、人々が得る情報が膨大になった時代には、トップマネジメントの悪心はすぐにばれます。社員にもばれますし、お客様にも、世間にもばれます。悪いことはすぐに広がります。そして人心が離れていくのです。

どうか心に利他を持ってください。トップマネジメントとしての正しい心とは何かを追求してください。
 
それから、心を整える方法として、形から入る方法もあります。環境整備をトップマネジメントに応用するのです。

環境整備とは、お客様満足を上げるために、働きやすい環境を整えることです。環境整備は、項目として礼儀・規律・清潔・整頓・衛生・安全の6つがあります。主に毎日の清掃によって職場をピカピカにし、環境を整えることをします。形から整えて、心を整える方法です。

人は動作行為や、見ているものに影響を受けますから、形から入って心を整える方が容易なのです。毎日清掃していると、愛着も湧いてきますし、心を込めて清掃できるようになります。


みなさんも、綺麗なものを見るのは好きでしょう。イケメンが好きな人、美女が好きな人は多いですよね(笑)。逆に、汚いものを見るのは嫌でしょう(笑)。職場も一緒です。汚い職場を見ていると、心がどんよりしてきますが、綺麗な職場を見ると、気持ちがよく前向きに明るくなるのです。だから、社員教育に悩んでいるトップマネジメントは、環境整備を取り入れたらいいのです。

そこで、環境整備を、トップマネジメントの心を正すことに使う方法を説明します。

なんと言っても、自分自身を綺麗に清潔にしてください。風呂に入りましょう(笑)。爪を切りましょう。髪もきちんと床屋や美容室に行って、切ってもらいましょう。白髪が気になるなら、染めたらいいと思います。男性でも肌の手入れはしておいた方がいいですよ。後々に差が出ます(笑)。

ワイシャツやスーツは綺麗にしておいて着てください。スーツ、ネクタイとワイシャツの組み合わせは、できれば女性に見てもらいましょう。奥さんや彼女がいない人は、スーツのお店に行って、センスの良さそうな女性に聞くといいでよ。その時に「清潔感のある明るいイメージ」とか、具体的に自分が着たいイメージを伝えましょう。決して「適当で」は言わないように(笑)。自分を前向きに表現する言葉を伝えてください。「かっこいい感じのを選んでいただけますか?」と言ってもいいのではないでしょうか。

それから、靴はきちんと磨いてください。古びた靴は買い替えた方がいいです。財布も同じですね。くたびれた財布は持たない方がいいですし、財布の中が領収書やクーポンなどでいっぱいにならないように毎日気を使ってください。


あと衛生です。衛生は健康を守り病気の予防をはかることです。

具体的には体を鍛えることです。体を鍛えるというと、ジムに行くのかと思うかもしれませんが、自宅や通勤途中を使って十分に鍛えることは可能です。

まず、筋トレは週に2回がベストだということを知ってください。週に2回筋トレした筋肉の成長率を100%とすると、週に3回筋トレした場合は70%に留まります。これは筋肉の休息に2日必要なのが影響しているようです。筋トレは中2日でやるか、曜日を決めて週に2回やれば十分なのです。

それから、筋トレはハードな内容をする必要もありません。詳しくはここに書きませんが、基本的なトレーニング、例えば、腕立て伏せ、腹筋、スクワットなどをやってOKです。真向法(まっこうほう)を御存じの方は、それをされてもいいと思います。

このようにトップマネジメントの心を整える方法として、形から入る方法をいくつか紹介しました。心を整え、心を正すには、仏教の八正道を使った反省修法が軸になります。ただ、自分自身の肉体や服装、持ち物への環境整備によって心を整える方法も並行して実行されると効果は高いのでお薦めです。

知識が不足すると経営に危機をもたらす

 
次に第4条の説明に入ります。この4条から経営に関する知識的な面が出てきます。知識は、”心”と並ぶ経営の「もう一つの核」です。もし知識が不足している場合は、経営に危機を招きます。

では、どういった知識が必要になるのでしょうか。


一つの単語で言うと、「マネジメント」になりますが、具体的には次の4つがメインになります。

(1) マーケティング
(2) イノベーション
(3) 組織のマネジメント
(4) 管理会計(キャッシュフローを中心に)


このうち、(2)のイノベーションは、第7条で触れますので、ここではそれ以外のものについて解説します。

はじめに、マネジメントの定義から考えてみます。

マネジメントの父、ピーター・F・ドラッカーは、マネジメントをどのように定義しているでしょうか。ドラッカーは、『ポスト資本主義社会』(上田惇生他訳、ダイヤモンド社)の中で、次のように述べていますね。

- 成果を生み出すために「既存」の知識をいかに有効に適用するかを知るための知識こそが「マネジメント」である。-


ドラッカーは、テイラーの科学的管理法を例に挙げながら、「知識を仕事に適用したこと」が、生産性の爆発的な向上をもたらしたと述べています。そしてテイラーの次の時代、ポスト資本主義社会(知識社会)は、知識の変化の最終段階として、「知識の知識への適用」の時代になると説明しています。

知識社会は、知識が専門化します。そして、専門化した知識は単独では成果を生み出しません。他の知識と一緒になって(統合されて)成果を生み出すのです。

例として、外科手術があります。外科医はレントゲンの専門家ではありませんので、レントゲンは診療放射線技師が撮影します。また、手術中の麻酔は麻酔科の医師が行います。外科医は、レントゲンや麻酔の専門知識はありませんが、どの場面でその専門家の仕事が必要であるかを知っています。専門化の知識を統合して、手術を成功させることをしているわけです。


このように知識は、単独では成果を上げることができないため、知識の持ち主である知識労働者は、必然的に組織(チーム)を必要とします。外科医の知識が、専門化された知識を統合している姿、すなわち「知識の知識への適用」の姿のイメージをつかんでいただけたでしょうか。

ただし、ドラッカーは、知識の知識への適用ということを述べていますけれども、私は更にプラスして考えています。

この「仏教的トップマネジメント」におけるマネジメント”の定義は、「成果を生み出すために、既存の知識と、”心”をいかに有効的に適用するかを知るための知識」です。心を仕事に適用させるための知識を付加しています。

また、知識も、ビジネス知識だけではなく、経営に応用ができる仏教思想をお伝えすることによって、成果を上げることを目的としてます。


それから、ドラッカーの「マネジメント」との違いとして、この10か条は、思慧すなわち考え抜くことを前提に作っています。

思慧は、瞑想することによって効果が上がります。背筋を伸ばし、深呼吸をして気持ちが落ち着いてきたら、1条ずつ瞑想して思考してみるのです。10か条すべてが自分への振り返りになっていますから、自分の内面に自然と向き合うことにつながります。1から10への段階を追うようになっていますから、思慧を習慣化されたら、おそらく良いインスピレーションを受けられるようになるはずです。このあたりもドラッカーの「マネジメント」との違いになります。


なお、マーケティングについては、P・F・ドラッカーやフィリップ・コトラーの書籍が参考になりますので、読まれると良いです。(ドラッカーは『現代の経営』、『マネジメント』(両方ともダイヤモンド社)が参考になります)。

よく誤解されていることが、マーケティングとは販売だというものです。これは違っています。マーケティングは全事業にかかわる活動です。ドラッカーは販売とマーケティングは逆のものであり、同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえないとして次のとおりに述べています。

マーケティングの理想は、販売を不要にすることである。
マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。
(『マネジメント』)。



マーケティングは、技術部門、設計部門、生産部門などに必要な情報を与える役割があります。
顧客が製品に何を求め、いくらなら払ってくれるかを伝える必要があります。マーケティングが販売、流通、アフターサービスだけではなく、製品設計、生産計画、在庫管理に至るまで主導的な役割を果たさなければなりません。


これだけ重要な仕事ですので、社長一人でやるのは無理です。そもそもひとりの人間が、これだけ広範な知識を持っていることが無理なのです。もし従業員が10人以上いるのなら、優秀な社員を選抜し、トップマネジメントチームを作り、チームでマーケティングに対応するようにしてください。

それから、マーケティングの販売戦略については、田岡信夫さんのランチェスター戦略を参考にするといいでしょう。

ランチェスター戦略を簡単に説明すると、自社が勝てる規模の市場まで、対象の市場をセグメントし市場を小さくします。そして、小さくした市場に戦力を集中投入して勝っていくという戦法です。実践しやすいので、知っておいくと有効な戦略です。


また、マーケティングでの一番のツボは、顧客の声を知ることです。なぜ、自社の製品やサービスを買ってくださったのかを直接聞いてください。この”直接”というのが、ポイントです。トップマネジメントはお客様に直接会って、なぜ我社の製品を買ってくださったのかを、生の声として聞いてください。間接に聞くのとは、全然違います。

私がコンサルティングをするときに、「お客様は、なぜ御社のサービスを買ってくださるのでしょうか?」と会社の方にお聞きすると、大抵「○○だからです。」と、きちんとした回答があります。

しかし、そのお客様の声を書いて記録しているところは、まずありません。これはお客様の意見を印象で記憶している可能性があるということなのですね。たくさんのお客様に聞いて、それを記録していたら、思っていた意見とは違うものが多いかもしれないのです。

だから必ず記録を取っておくことと、お客様の考えは憶測しないことが重要です。多分こうだろうという憶測は、全く外れている可能性があるんですよね。


それと顧客だけではなく、非顧客(ノンカスタマー)の声をできるだけ集めてください。

企業にとっては、こちらの方が重要な情報があるでしょう。顧客なってもおかしくないのに、なぜ我社の製品やサービスを買っていただけないかを、たずねて情報を残してください。それらが今後のマーケティングの材料になります。


組織のマネジメントと管理会計

 
次は「組織のマネジメント」です。人事に関する知識ですね。
 
一番大事なことは、強みによって人を配置するということです。人は強みでしか会社に貢献できません。弱みを良くしようとしても、ほとんどが無駄になります。会社組織の目的は、複数の人が協同で仕事をすることによって、人の弱みの影響を極力少なくすることです。それゆえ、トップマネジメントに必要なのは、社員の強みを見抜くことになります。

顧客について憶測がいけないということを述べましたが、社員の強みについても同じです。印象で社員の強みを見ないようにしてください。

社員の強みを見つけるコツは、社員の過去の成果を見ることですね。社員がどのような実績を挙げてきたか、その事実を見て、彼の強みを判断するようにしましょう。過去の成果に強みのヒントがあります。何ができて、何ができなかったかを見るのです。社員の強みを簡単に決めつけるのではなく、時間をかけて見抜くようにしてください。


それから、人事においては、誰もできないポストを作らないでください。例えば新製品を開発して新規事業を立ち上げ、すぐに黒字化するようなポストです。中小企業では人が足りないという理由から、複数の重要なミッションを一人の人間に課すことがあります。ほとんどの人は強みを多分野に持ってはいないので、結局誰もできないポストになってしまうのですね。

必ず一人ができる仕事にまで分解して、担当させることです。中小企業でしたら、全体を社長が見るしかないでしょう。人材が不足している部門は、外部の専門家を使ったり、協力会社を探したりして対応することも必要です。


また、組織のマネジメントで大事なことは、上司が部下に必ず説明をすることです。例えば、ある仕事を部下にやってもらうとして、なぜその仕事を部下にやってもらうかを、上司はきちんと説明できなければいけません。

大抵の上司は、部下に話しをするとしても一方的で、部下がどう思っているかを聞いていないのではないでしょうか。したがって、上司は、部下との意識のギャップを理解できていません。

上司と部下とのコミュニケーションのコツは、お互いに考えていることを相手に伝えて、考えていることの”溝”をお互いに理解することです。

上司と部下に意識のギャップがあるのは当たり前です。ギャップはあるけれども、お互いに意見を出すことによって、上司は部下の意識を知り、部下も上司がどのようなことを考えているかを知ることができるのです。

そして、上司は、部下に対して何をサポートすべきかを考えます。部下は、上司にどのようなことを助けてほしいかを伝えるのです。上司は、常に部下を助けるのが仕事であると思ってください。  


それから、トップマネジメントが学ばなければいけない知識は、キャッシュフローを中心とした管理会計です。株主などの利害関係者に会社の数字を公開する場合、財務会計という決まったルールによって、財務諸表を作成しなければなりません。また、税務申告には財務会計から税務会計の処理が必要です。これらは法律で決まっています。そうした決められたものではないのですが、トップマネジメントが意思決定をする上で必要になるのが管理会計です。


管理会計ではどのような資料が作られるかといいますと、中期経営計画書や、事業計画書、単年の予算実績管理表や資金繰り表などがあります。労働生産性、労働分配率、損益分岐点などの指標も、管理会計で使うものの一部です。

キャッシュフロー計算書は財務会計にもありますが、実務では、予算実績管理表の中に資金繰り表を組み入れた方が数字をつかみやすいです。なぜなら、月ごとにお金の動きの予測ができるからです。とにかく、会社は、現金もしくは現金同等物をたくさん持っていることが一番大切です。

売上が悪くても、赤字であっても、お金があれば倒産しませんし、給料を払えます。必ずキャッシュフローを意識した経営をしてください。特に売上が伸びているときは、3年先までのキャッシュフローを予測し、資金の準備をしておくことが必要です。


それから、財務諸表ですが、トップマネジメントは、財務諸表を作成する知識は必要ありません。ただし、財務諸表の見方を大まかには知っておかないといけないでしょう。当たり前のことですが、売上高は入金額ではないことに気をつけてください。また、借入金の返済は、仕入や給料の支払いなど、すべての費用を払った後に税金を払って、残ったお金から返済することを知っておいた方がいいです(借入金の返済は損金として認められません)。


そして、管理会計として、売上高年計表、ABC分析表は作成するといいでしょう。それと大まかな数字で良いので、自社の市場シェアを知っておく必要があります。細かい数字を知る労力も費用ももったいないし、完全な数字は不可能なので、「当社は、10%のシェアくらい」のことを知っておけばいいです。


管理会計は深みにはまらないようにしてくださいね。表の作成の仕方を知るのではなくて、成果を上げ、リスクを負えるようにするために、どういった情報(数字)を得るべきなのかを知ってください。そして、どういった計画が必要なのかを知ることが大切なのです。

トップマネジメントが得るべき知識を四つ挙げましたが、これ以外にも必要に応じて様々な知識を学んでください。ただ、中心になるのは、ここで述べた四つです。

学習する組織については、別の機会に書くことにします。

第5条及び第6条

 
仏教的トップマネジメントの第5条は、文は短いですが視点が二つあります。

5.正しく語れ!


<理解を深めるための補足文>

トップマネジメントは正しく語れ!ビジョンや理想を語り、経営計画書に明文化せよ。また、人を育てる言葉、活かす言葉を発せよ。言葉はエネルギーそのものである。


<解説>

第5条の元は、仏教思想の八正道の正語(しょうご)です。「正しく語る」から来ています。「正しく語る」ためには、知識を得る必要があるので、第4条のあとに、この条文が入っています。知識が少ないと、薄っぺらな語りになりますから、学び続ける姿勢があっての「正しく語る」だと考えてください。

ところで、仏教的トップマネジメントで「正しく語る」とは、二つのベクトルがあります。一つは、ビジョンや目標を設定し、語るベクトル。もう一つは、人材育成における語るベクトルです。

トップマネジメントの最も大事な仕事は、組織が向かう方向を示すこと、すなわちビジョンを示し、ミッションが何かを社員に伝えることです。ビジョンやミッションが無い集団は、単なる人の集まりになってしまいます。

「我社は、何をするために存在しているのか」、
「他社ではなく、我社の製品やサービスでなければならないわけとは何か」、 「我社は、どのような会社であるべきか」
 


これらの問いに答えて、それを言葉として発しなければなりません。そして、口から言葉を発するだけではなく、経営計画書に経営理念、ビジョン、ミッションを明文化しましょう。

なぜわざわざ明文化しなければならないのか、疑問を持たれる方も多いと思います。その理由は、人は口頭で言ってもなかなか分からないからなのですね。

全員がトップマネジメントから直接ビジョンを聞けるとは限りませんし、仮にトップマネジメントがビジョンを直接話すとしても、話すたびに少しずつニュアンスが変わってしまうかもしれません。幹部がトップマネジメントから聞いてそれを部下に伝えるとしても、誤って伝わる可能性もあります。

トップマネジメントがビジョンや会社の方向性を文字や数字にすることによって、社員が向かうべき方向がはっきりとする
のです。


それ以外に、発する言葉の大切さとして、言葉が人を活かすこともあるし、ダメにすることもあるということです。

人間は言葉によってコミュニケーションを取ります。言葉によって、相手の考えを知ります。言葉以外の外見の印象がものをいう場合もあります。しかし、人間が意志を伝える最大の武器は言葉です。言葉によって、人間は作られていきます。人は言葉によって勇気づけられるし、傷つきもします。時には言葉によって命を懸けることもあるのです。

トップマネジメントは語る言葉に磨きをかけなければいけないし、語る言葉を正しくしなければいけないのです。


そのために、トップマネジメントは、日頃から文字を書く習慣を持つと良いです。ブログを書くのは一つの方法です。学んだ内容をアウトプットすると、インプットがしやすくなります。また、書くことによって表現力が上がるだけではなく、学びが深まります。言葉を使いこなせるようにするための訓練と、学習を深めるための両面から、何らかの文章を書き続けることをお薦めします。


なお、仏教では三業(さんごう)の一つに口業(くごう)というものがあり、四つの戒めがあります。

不妄語(ふもうご)  嘘をつかない
不綺語(ふきご)   不誠実なお世辞を言わない
不悪口(ふあっく)  乱暴な言葉を使わない
不両舌(ふりょうぜつ) 二枚舌を使わない

これらを犯すと悪業になると言われています。正しい内容を語ろうとするだけではなく、正語の反省修法の方法として、これら四つの戒めを反省の材料にされると良いですね。
 

次に、仏教的トップマネジメントの第6条は、第4条の知識に関係しますが、強調するためにあえて別に分けています。


6.人生の悪についても研究せよ。



<理解を深めるための補足文>

人生の悪についても研究せよ。単なる「お人好し」で経営をしてはいけない。他の人に悪を犯させない知恵も大切である。



<解説>

私が倒産の事例を研究したときに多かったのが、甘い話に乗って騙された社長や、人が好くて連帯保証人になり倒産した社長です。人が悪いことをすることをあまり考えられなかった社長のパターンです。トップマネジメントはお人好しによって、会社を倒産させたり、危機に陥らせたりしてはいけません。

経営では、事業をするにあたって、必ず負わなければならないリスクがあります。例えば、医者だったら治らないリスクもありますし、下手をすれば患者が亡くなることもあります。しかし、仕事上、避けようがないリスクです。ところが、負う必要のないリスクもあります。それがこの「お人好し」のケースです。

負う必要のないリスクとは、自分が相手の要望に応えなければ発生することのないリスクです。

私が思い出すのは、アサヒビールの樋口廣太郎さんのことです。樋口さんはアサヒビールの社長に就任したときに、キリンビールをたずねて、「我社のビールのどこがいけないのでしょうか?」と聞きに言っています。キリンビールの首脳は、「アサヒの売っているビールは古すぎる」など、いくつか思うことを樋口さんに伝えたようです。上杉謙信が武田に塩を送ったことは「敵に塩を送る」という歴史上の美談になっていますが、企業経営では敵を利する美談はいりません(笑)。


仏教的トップマネジメントでは、利他の精神を話していますけど、それを他社が有利になるようなところまで行くと、それは自分たちを滅ぼすことか、弱らせることにつながってしまいます。そうなると、大事な社員を守ることもできなくなりますので、負う必要のないリスクは断じて負ってはなりません。経営は「お人好し」ではいけないのです。「業界の発展を」と、手の内を全て見せるトップもいますが、それで自社が潰れれば業界の発展にはならないでしょう。

そして大事なことは、どういったシチュエーションになると人が悪いことを考えるかを知っておくことです。何か企業犯罪が起きたときには、どういった背景でそういったことが起きたのかを調べておくと良いです。一つ言えることは、誰もが見ていないシチュエーションになると、人は悪いことを考えがちだということですね。

例えば、お金の出し入れを自分だけが把握しているだとか、印鑑と通帳を持っているけれども誰もそれをチェックする体制になっていないなどです。

それと、分不相応は地位やお金を得ると、おかしくなる人がいます。人の上に立つべきではないのに、創業メンバーだからということで、取締役になっている人がいます。そして会社が大きくなって、上場企業までなって、取締役としての役割が大きくなり、権力を振り回してしまうこともあります。それとは逆に、仕事ができるタイプでおかしくなるケースもあります。仕事で成果を上げて、自分がこの会社を全て動かしている、持たせていると慢心する者もいます。こうした人は大抵ナンバーツーか、ナンバースリーなのですが、トップと会社の所有について争うこともあります。

人を選ぶことも大事ですが、人はどういったシチュエーションで悪を働くかを考えておくことです。ほとんどの場合、トップマネジメントの油断や、経営のほったらかしが原因ですので、気をつけなければなりません。

人に悪を犯させない知恵も必要であることを知っておいてください。

第7条及び第8条

 
仏教的トップマネジメントの第7条は、次のものです

7.失敗の中にイノベーションの機会を見つけよ。



<理解を深めるための補足文>

失敗の中にイノベーションの機会を見つけよ。失敗から教訓を学び、次の発展へつなげよ。失敗を教訓にするとき、失敗は成功へと代わる。創造力を使いイノベーションを生み出せ!



<解説>

この第7条は、逆転の発想になっています。事業経営をしていて、失敗することは避けられません。願っていたことが実現しないことはよくあることです。しかしながら、その失敗を教訓にし、学びにすれば、次の発展へと繋がります。その失敗が教えるものは何か、失敗を材料にして飛躍する方法はないのかを考えてください。

特に大事なのは、失敗をイノベーションの機会と捉えることです。ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』(小林宏治監訳、ダイヤモンド社)の中でイノベーションの機会を7つ挙げ体系化しています。

1.予期せざる成功、予期せざる失敗
2.ギャップの存在
3.プロセス上のニーズ
4.産業や市場の構造変化
5.人口構造の変化
6.認識の変化
7.新しい知識の獲得

この中でもっとも容易なイノベーションの機会が、1の「予期せざる成功と予期せざる失敗」だということを述べています。

売上の失敗があるなら、それは市場の変化を意味しているのではありませんか?

どこか貴社が見落としている顧客の意識の変化、嗜好の変化がないでしょうか?

何か貴社が顧客の要望に対して変わりきっていないところを教えているのではありませんか?


製品やサービスが顧客の要望に合わなくなっているのなら、それを合うようにイノベーションしなければなりません。現在の組織がそれに応えることができないのなら、応えられるよう組織もイノベーションしていきましょう。イノベーションが富を生み出します。

そしてイノベーションのコツは、目標を高く大きくすることです。なぜなら、イノベーションは10回に1回くらいしか成功しないからです。成功した場合の成果が大きいものに挑戦してください。


ところが、失敗したトップマネジメントは、自信を失っていることがあります。イノベーションなんて、とてもできないと思うこともあるでしょう。

しかし、失敗しても、それを逆手にとって勝てばいいのです!失敗には学ぶ材料が一杯です。失敗は、自分たちが足りないもの、変わらなければならないものを教えてくれます。

失敗を礼賛する必要はありませんが、何があってもプラスにしていくのだという強い気持ちをもってください。この世に無駄な失敗は一つもありません!

失敗を何するものぞ!と勇敢に進んでください。
必ず道は開けます!



次の、仏教的トップマネジメントの第8条は、忍耐の大切さを説いています。

8.すぐの成功を求めてはいけない。



<理解を深めるための補足文>

すぐの成功を求めてはいけない。願いが実現するまでにはタイムラグがある。プロセスを着実にこなし、目標までのマイルストーンを立て、段階を追った成功を考えること。忍耐も大切である。



<解説>

第8条は、成功を目指すトップマネジメントが、足下をすくわれないようにするための戒めになっています。トップマネジメントによっては、目標だけしか見えなくて、目標までにクリアしなければいけないものを見ていない人がいます。途中の段階を一つ一つ積み上げられない性格の人です。こうした方は失敗しやすいので、地味ですが、確実に小さな成功体験を積み重ねていくことが求められます。

例えば東証一部上場を目指すとしても、まずは新興市場に上場するところから目指せばよいわけです。そして、新興市場に上場する前に毎年利益を積み上げ、社内の体制を固めていく必要があります。

目標が大きいほど、それまでの道のりが長いわけですけど、マイルストーンを設定し、それを目指して着実に一歩一歩進んでいくことが、成功の鍵です。

「すぐの成功を求めてはいけない」ということで誤解していただきたくないことは、短期的な(1年間など)成果を出すなという意味ではないことです。短期的な成果も必要です。

ここで言わんとしていることは、途中のプロセスを無視した考え方をしないことと、長期的な視野を持った成功を考えていただきたいということです。成果があがらないから、すぐにダメだと短絡的にあきらめるのではなく、努力し続ける精神が大切なのですね。

その考え方として大事なことは忍耐の精神です。目標への道のりが長いと、それだけ時間を耐えなければなりません。これは並大抵のことではありません。じーっと耐えながら、努力を続ける意志が必要になるのです。その上、人は一つのことにしか才能はありません。ある一つの仕事の分野を10年、20年、30年、50年と続けていく根気がいるのです。


大乗仏教で菩薩が行うべき修行に六波羅蜜(ろくはらみつ)というものがあります。六種類の修行がありますが、その一つに、忍辱波羅蜜(にんにくはらみつ)というのがあります。菩薩になるための苦難の修行を耐え忍ぶことですが、経営においてはトップマネジメントにも耐え忍ぶことができる精神が求められるでしょう。

先ほどは、事業経営の目標に触れましたけれども、人材育成についても同じです。すぐに人が育つように考えるのではなく、時間がかかるのを理解した上で、時間を待ってあげることも大切です。すぐに結果が出なくても、あとあと実が結ぶこともあります。

特に人については成果が上がるのに時間がかかるでしょう。時間がかかって当たり前だと思って、忍辱の心で見てあげることです。部下にいろいろ話しても今は分からないかもしれません。でも、2年後なら分かるかもしれません。年を取ったら分かるかもしれません。今は理解していないし、いつ理解をするかは分からないけれども、今話さなければいけないこともあるのです。

経営においては、忍耐を求められることが多いです。ただ言えることは、短気を起した方が負けだということです。

短気を起さず、大局を見てください。長期的な視野も持ってください。着手するのは小さくていいです。でも、遠くを見る視野も持ってください。すぐに結果が出なくとも、努力を続ける気力が大事なのです。

第9条及び第10条

 
仏教的トップマネジメントは、ラスト2か条まで来ました。第9条は、次のとおりです。


9.世の中を発展させよ!


<理解を深めるための補足文>

世の中を発展させよ!社員、お客様、地域、そして日本と世界をより幸福にするのがトップマネジメントの使命である。



<解説>

第9条は、トップマネジメントの使命(ミッション)について書いてあります。ここでは、ドラッカーと考え方が違う部分となっています。ドラッカーは「企業の目的は、顧客の創造である」と喝破しました。これは、ドラッカーの言葉の中で、トップマネジメントに最も大きな影響を与えた言葉かもしれません。

しかし、私は、更にその先を企業の目的にしたいと思っています。それは、「企業の目的は、幸福の創造である」ということです。

では、何の幸福の創造かというと、企業で働く人々の幸福と、お客様の幸福と、地域や社会の幸福です。私は「三方幸福の精神」と名付けています。


これは、近江商人の「三方良しの精神」を参考にしたものです。三方良しとは、売り手良し、買い手良し、世間良しの三つの良しのことで、売り手も買い手も満足して、かつ、社会貢献にもつなげようという近江商人の考え方です。

お客様第一主義を標榜する企業は多いかと思いますが、お客様が幸せになる発想だけではなく、役員を含めた働く人々が幸せになる発想も同じく必要ではないかと思うのです。お客様のためにといって、従業員が犠牲になってはおかしいのです。どちらかが幸せになるというのではなく、どちらも幸せになるような考え方が必要ではないかということです。そして、それが結果的に地域や日本や世界に貢献するものであってほしいのです。


では、顧客の創造は必要ないかというと、そうではありません。顧客の創造は、幸福を創造する必要条件になります。企業が幸福を創造していく過程において必要なことが顧客の創造なのです。

そして、企業という営利活動をする組織体の使命として、必ず目指すべきことは、世の中を昨日よりも今日や明日を発展させることです。事業活動によって、昨日よりも今日や明日が発展したとの事実を作っていくことが、企業のミッションです。

人々の暮らしが良くなった、明るくなった、楽しくなったと、なんでもいいです。安心して生活ができるようになっただとか、美味しいものを食べられるようになっただとか、新しい学びを得ることができるようになっただとか、なんでもいいのです。何か世の中を発展させる目標は必要です。わが社の事業経営によって、世の中を発展させてみせるという気概を持ってください! 

経営をするからには、トップマネジメントは小さな目標を掲げないでください。
大きな目標を掲げて、それに挑戦するからこそ、人間として生まれてきた喜びがあります。それは社員も同じです。生き甲斐は、仕事での高い目標を達成する中に生まれます。いつか人生を振り返ったときに、「ああ、わが社の製品やサービスで、世の中がこんなに便利になったのだなぁ、人々が幸福になったなぁ」と思えるような仕事をしていただきたいと思います。そのためには、高い目標と高い志を持つことなのです。



仏教的トップマネジメントの最終の第10条です。

10.富無限とは、感謝無限である。


<理解を深めるための補足文>

富無限とは、感謝無限である。大黒天のようにお金を生み出し、世界を富で満たせ!自分が生かされ、支えられている恩を知り、その報恩行として経営をするのだ!


<解説>

第10条は、感謝という言葉がキーワードになっています。少しスピリチュアルな内容であり、文字で理解する条文ではありません。文字で考える材料を得たら、あとは実践していきながら内容を深めていくものです。そして、この第10条からまた第1条に戻って努力精進を続けるようなイメージで出来ている内容であり、仏教的トップマネジメントを統括するような条文でもあります。

第10条を理解するには、仏教の「縁起(えんぎ)の理法」への理解が必要になります。仏教の「縁起の理法」の”縁起”とは、「因縁生起」(いんねんしょうき)の略で、あらゆるものは因という直接の原因と縁という間接的な条件がお互いに関係しあって生じたり滅したりするという考え方です(『図解 ブッダの教え』、西東社)。

植物のひまわりに例えますと、ひまわりの種があります。これが因です。それに光や土、水などの諸条件が縁で、その結果(生起)がひまわりの花が咲くということです。このように世界中の全てのものが因と縁となって、生滅に関わっているのです。

仏教以前の古代インドでは、民衆の信仰に「業の思想」がありました。人間のすべては過去世の原因によって決まるので、現世でどんなに努力しても意味はないというものでした。つまり、過去世で悪いことをした人間は、悪因悪果(あくいんあっか)として不幸になるのは決まっているから、何をしても無駄だという考え方ですね。宿命論です。

しかし、ブッダはその宿命論を否定しました。精進し努力することによって、現世でも良い結果を得ることができるという縁起の理法を説いたのです。あくまでも現世での精進と行為を重要視したのですね。ものすごく前向きな考え方ですし、当時の人々にとっての救いだったと思います。

トップマネジメントも自分の経営行為が、新たな因や縁を作り、新たな結果を受ける(果報)ので(結果を受けることを「果報」(かほう)と言います)、良き種をまき、良き行いをし、良い結果を受けるようにするべきなのです。因果はくらませることができないといいます。因果はごまかすことができないものです。縁起の理法は必ず働いているので、それを信じて正しい心で努力精進をしてください。

そして、縁起の理法の話をしましたが、大切なことは自分たちの存在も縁起の理法で成り立っていることです。私たちは両親のおかげで現世に生まれることができています。その事実は変わることがありません。そして、両親なのか、祖父母か、親戚かどなたか分かりませんが、必ず誰かの助けで生かされ、大人になっていたはずです。人間は一人で生きて大きくなることはできません。生きていくなかで、いったいどれだけの愛をいただいたでしょうか。

振り返ってみてください。どれだけの回数、食事を作ってもらいましたか?

その食事はどうやって手に入ったのでしょうか。誰かが働いて、買ってくれた食材を、誰かが作ってくれたものではないでしょうか。

住む家を作ってくれた人、水がすぐに飲めるように整備してくれた人たち。数えきれない人のおかげで私たちは生きることができています。それは大人になっても、収入を得ても同じです。無数の人たちの努力と愛のおかげで、今の生活を私たちは送ることができているのです。

その恩を思い出すとき、感謝が湧いてきます。その感謝こそがトップマネジメントの力になるのです。

愛を与えてくださった人々への恩返しが経営なのです。

経営を通じて、今まで与えてもらった愛を返していくのです。


この事実に気づいたときから、富無限の流れになってきます。感謝無限の思いは、富無限へとなっていくのです。

そして、富無限とは、神仏の愛が無限であることなのです。感謝無限は、富無限であり、神仏の愛が無限であるということなのです。それが縁起の理法から見た真実の姿なのです。


どうか、トップマネジメントは、大黒天となって、お金を無尽蔵に生み出して、世界を富で満たしてください!

貧困のない世界を作っていきましょう!
失敗した人が再チャレンジできる社会を作っていきましょう!
人々が平和に暮らせる世界を作っていきましょう!
人々が進歩しながら、大調和している世界を作っていきましょう!

繁栄は、一人ひとりの愛の思いから始まります。頑張って行きましょう!!

< 了 >